第28話 八つ頭のドラゴン、出現
「うぐっ、むぐぐ……プハッ!」
起き上がろうとしたが、手脚が沼にハマったかと錯覚するぐらい思うように動けなかった。
「むぐ、ふぐ、うぐぐ……」
私は懸命にジタバタして、どうにか仰向けの体勢になる事ができた。
「ふぅ」
安堵の息をついたのも束の間、私の視界に逆さまに写った男女がこちらを見ていた。
「うわっ!」
私は起き上がって、水に浮かんだアリみたいにバタバタした後、ようやく雪のない所に足を着いた。
若い男女が口をポッカリと開けて立っていた。
口元をよく見ると、黒い線があったので、人形だなと直感した。
辺りを見渡してみると、半壊した椅子やテーブルが雪の下敷きになっていた。
あー、民家を思いっきり壊してしまったのか。
「あの、えっと……大丈夫ですか?」
私は恐る恐る声をかけてみた。
若い男女の人形は瞬きをするだけで、何も返さなかった。
「あの……誠に勝手なんですけど、緊急事態なので、この場を離れてもよろしいでしょうか?」
私がそう尋ねてみても、誰も答えなかった。
「じゃあ、失礼します……」
私は忍び足で二人の横を通り過ぎた。
彼らは目線だけ私の方を向いただけで、声をかける事はなかった。
「天井は全てが片付いたら、キッチリ直しますので!」
私は二人に聞こえるように叫んだ後、猛ダッシュした。
あの家から出ると、どうやら住宅街になっているらしく、似たような三角形の屋根をした積み木のような家が並んでいた。
「ローーリーーン!! ティーロ! ティーマス! ティーナーー!!!」
私は知っている名前を叫びながら走った。
所々悲鳴や何かが崩れる音がする。
私が放った雪が原因で……いや、明らかにあの巨大な何かに向けられていた。
思わず立ち止まってしまった。
恐らくあそこにはお城があったのだろう。
それが今では巨大なドラゴン……頭が八つもあるドラゴンがそびえ立っていたのだ。
胴体には長方形の額縁があり、その中にムーニーのドアップの顔が描かれいた。
いや、えっと、あれは何て言うんだっけ……ホログラム?
違う。モニターだっけ?
喋れる絵みたいな……いや、表情が変わらないからただの絵かもしれない。
「アーーーハーーーー!!!!」
いや、前言撤回。
絵の中で、ムーニーが急に笑いだしたから、モニターだ。
あんな高い所から地上まで聞こえるって……どんだけ馬鹿でかい声で叫んでいるんだ。
なんて事を思っていると、「メタさん!」と私を呼ぶ声がした。
その方を見ると、ティーナが走ってきていた。
「良かった! 無事――」
だが、石でも
その拍子に、頭が離れているのが分かった。
「危ない! ユユーーー!」
私はとっさに手から吹雪っぽいものを出して、王女様の頭と身体を受け止めた。
しかし、量が多すぎたのか、パフッと埋まって何も見えなかった。
「ティーナ王女!」
私はすぐに駆け寄って、王女様を救出した。
頭も無事に綺麗にはまった。
さぞ怒っているかなと思ったが、何故か嬉しそうな顔をしていた。
「ははぁ〜〜!! これ、何ですか?」
ティーナは雪の方を指差して言った。
「えっと……雪だけど?」
「ユキ! ユキって言うんですね! なんて柔らかくて心地良いものなんでしょう!」
ティーナはそう言いながら手を雪の中に突っ込んだり、小動物でも愛でるかのように撫でたりしていた。
なるほど、確かこの国の周辺は
雨も全然振らない所だと仮定すると、雪なんて滅多に見られないのだろう。
王女は楽しそうに雪で遊んでいると、子供の人形が集まってきた。
「なになに?! なにこれ?!」
「フワフワしてる!」
「冷たい! 凄く冷たいよ!」
子供達の声に反応したのか、大人の人形達もワラワラと集まってきて、雪を楽しんでいた。
中には子供達と一緒になって雪球を投げ合って遊ぶ人形もいた。
こいつら、緊急事態なのに呑気に雪遊びをしている。
危機感はないのかと思っていると、王女がいつの間にか集団から離れている事に気づいた。
近づいてみると、目に涙を浮かばせていた。
「王女……様? どうかしたの?」
私が首を傾げていると、王女はハッとして目元を拭っていた。
「なんだか……昔のピグマーリオを見ている気がして」
昔のピグマーリオ……ムーニーに改造される前の国の状態ってこと?
改めてみると、私が初めて来た時に比べて……うーん、大して変わっていないような。
和気藹々としている感じは似ているけど、何だろう、人形にしか分からない変化があるのかな。
それとも大人と子供が一緒になって、遊んでいる光景がそうなのだろうか。
いや、でも、ちょっと待って。
ムーニーは人形達を改造して、心を奪ったんじゃなかったっけ。
雪でそう簡単に取り戻せるのかな?
うーん……待てよ。
私は今までのムーニーの言動とティーロが言っていた事を思い出して、頭の中で整理した。
グルグル駆け回っていき、ある一つの結論に辿り着いた。
「ティーナ王女」
私は彼女に声をかけると、ティーナは「何でしょう?」と首を傾げた。
「ムーニーは人形達の心を奪っていない」
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感想は……そうですね。
メタが『ムーニーが人形達の心を奪っていない』という発言が気になりますね。
一体どういう事なんでしょうか……おっと。
まずい、見つかった!
では、失礼しま、します!
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