第25話 お姉さまの馬鹿ぁあああ!!!

「私を騙したの? お姉様」

 ムーニーは唖然とした顔でロリンを見ていた。

「違うわ。ムーニー」

 ロリンは首を振った。

「あれは最終手段よ。魔機を停止させ、この国の人達を元に戻して、チャーム王子の居場所を教えてくれたら、何もしない。

 本当よ、私を信じて」

 ロリンはそう言ってムーニーの両手を握った。

 彼女は一気に顔を赤らめて、サッと違う方を向いた。

 しかし、ウーンと唸っているだけでなかなか口を開こうとはしなかった。

 私はどうしたらいいのだろう。

 これは待機していた方が最善なのだろうか。

 せっかく剣を作ってもらったのに……でも、まぁ、余計な体力を使わずに済むから戦わなくても全然問題ないんだけど。

 むしろ安全に王子様が囚われている情報を知る事ができるから、このままロリンに任せた方がいいかもしれない。

 私が聞こうとすると、あいつはプリプリして三ツ頭みつがしらに殺させようとしてくるから。

 あと、火のポーションを食べているせいか、身体の中がめちゃくちゃ暑い。

 もう水風呂にダイブしたいぐらいなんだけど、公衆の面前でそういう破廉恥な事はできないので、二人の観察しながら涼しくなりそうなポーションが無いか探す事にした。

 その間、ムーニーとロリンのやり取りは続いていた。

「……じゃあ、私からのお願いも聞いてくれる?」

 ムーニーがか細い声でそう言うと、ロリンは「なに?」と微笑んだ。

「全て元通りにして、王子の居場所を教えたら、一緒にメタリーナお姉様の所に行ってくれる?」

「……え?」

 ロリンの顔が急に固まり、握っていた両手が緩んでいたが、ムーニーは構わずに続けた。

「私はロリンお姉様の頼みを聞いた後、私のお願いも聞く……ね? 等価交換でしょ?

 クソ末……メタや他の奴らには絶対に交渉しないから。ロリンお姉様だけだから」

 ムーニーが真っ直ぐロリンを見つめているが、彼女はオロオロした感じで視線を動かしていた。

 そして、頭を下げてしまった。

「……ごめんなさい。ムーニー」

 ロリンの声は震えていた。

「どうしても……どうしても……それだけは無理なの」

 この返事にムーニーの目は大きくなり、魂が離れるようにロリンの手からスルリと抜けて、一歩二歩と後退していった。

「なんで……」

 ムーニーの声はかすれているのかと思うくらい小さかった。

 ロリンはひざまずいたまま凍っているかのように止まっていた。

「お姉様の馬鹿ぁあああああああ!!!」

 ムーニーが天まで届きそうなぐらい叫んだ。

 それに共鳴するかのように三ツ頭みつがしらのドラゴンが動き出した。

 全頭部の口が開き、今にも発射しそうだった。

「ロリン!」

 私は固まっている姉を片手で無理やり引っ張って、ムーニーから遠ざけた。

 彼女の顔は沈んでいて、声を奪われたかのように黙っていた。

「まずい! 攻撃が来るぞ!」

 もはや空気と化していたティーロとティーマスが応戦しようと構えていたが、私は『ロリンを連れて逃げて』と彼らに姉を任せて、逃させた。

 二人は『なんか邪険に扱われてない?』と言ってそうな顔をしていたが、緊急事態なので特に言い返したりはせず、素直に言う事を聞いてくれた。

「逃がすか!」

 ムーニーが叫ぶと、三ツ頭みつがしらの口から炎、氷、雷のブレスが放たれた。

 私はすぐさま彼らの前に立って、全身で攻撃を浴びた。

 さっき食べたポーションのおかげか、炎は熱くなく、氷は涼しかった。

 けど、雷はビリビリと痺れてしまい、ガクッと跪いてしまった。

 うぅ、やっぱり電撃は駄目か。

「メタさん!」

 ティーマスが私の名前を呼ぶが、「いいから早く!」と促すと、ドアをバタンと閉まる音が聞こえた。

 よし、とりあえず彼らはこの部屋から脱出できたみたいだ。

 これで思う存分戦える。

「フンッ! 本当にお馬鹿ね」

 ムーニーはそうわらうと、三ツ頭みつがしらにトドメの一撃を与えるように命じた。

 ズシンズシンと近づいていくのが分かった。

 もちろん、腕を振り上げている事も。

 まったくこいつの攻撃はワンパターンなのか?

 それとも私相手だったら片腕の攻撃で十分だって言いたいのだろうか。

 本当に生意気な姉だ。

 けど、ここで度肝を抜かせてあげる。

 私はどうにか立って、剣先が斜め上になるように構えた。

 持ち手を両手でしっかりと握りながら指で出っ張りを探した。

 真ん中部分にある事を見つけると、躊躇ためらわずにカチッと押した。

 すると、刃から等間隔に穴が出てきて、そこから炎が噴射された。

 それは前に空を飛ぶ靴の底のように勢い良く炎が出ていた。

「はぁ?!」

 ムーニーもさすがにこれは予想できなかったのだろう、明らかに驚いた声を上げていた。

 私は剣を手放さないようしっかりと掴むと、炎の勢いで自分の身体が回り始めた。

 視界の中にムーニーと三ツ頭みつがしらが出たり入ったりを繰り返している。

 うへぇあ、めちゃくちゃ気持ち悪いけど、耐えるしかない。

 私は足がもつれないように気をつけながらゆっくり動き出した。


↓宣伝の妖精からのお知らせ

皆さん、こんにちは……チュピタンです。


ボソボソと喋ってしまって、すみません。


今、とても大きな声で話せない場所にいるので……。


早速ですが、この作品のフォローはお済みでしょうか?

もしよろしければ、登録をお願いします。

あとは……シッ!


……よし、通り過ぎました。

えっと……あぁ、この作品が面白かったら、ぜひ応援と星をください!


では、感想ですが……ムーニーがせっかく条件付きで手を打とうとしたのに、ロリンは断ってしまいましたね。


あれ……あれは一体どういう事なのでしょうか。

そんなにメタリーナに会うのが嫌なのでしょうか。

ロリンと長女との関係性も気になる所です。


では……次回、私が無事に船で密入国出来たらお会い致しましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る