第22話 見つけないと
だけど、城内は迷宮だった。
部屋数も多い上に、工場みたいにガラス窓で中の様子を確認できないから、一つ一つ扉に耳をあてないといけなかった。
その上、巡回している魔機達の相手をしないといけない。
一匹でも見逃したらすぐさまムーニーに報告されてしまうので、確実に仕留めて、出来るだけ発見が遅れるように空き部屋に隠したりしながら、彼らを探した。
階段を見つけたら、上へあがるようにした。
国の偉い人は大体高い階に住んでいるのが一般的だからだ……たぶんね。
現在のピグマーリオでトップの権力者はムーニー。
あいつの事だから、最上階に馬鹿でかい部屋を作って、いい気になっているに違いないが、念のため、他の階の部屋も探りながら進んでいく。
けど、途中で気づいた。
これってかなり時間がかかる事ではないかと。
だって、囚われた人形達が捕まっているという緊急事態なのに、こんな砂漠の中から一粒の金を見つけるような途方もない事をしていいのだろうか。
というか、ここでこそ嗅覚のポーションを使うべきでは?
そう思った私はミニスカートのポケットからロリンからもらった中からミントのやつが無いか探した。
えっと、これでもない。
あれでも……あ、あった。
薄緑色がそうだよね。
地下室の事もあるから怖いけど、意を決してパクッと食べた。
色んな匂いが私の鼻孔に襲い掛かった。
汗、油、カビ――不快な臭いが続いたが、突然甘い香りがした。
これはもしかして……砂糖?
一瞬ポーションかなと思ったが、遠くの方から匂いが来ているみたいだった。
ふとムーニーがフラスコの中にラムネを入れて食べている事を思い出した。
もし今も持っているのなら、この香りを辿れば、奴らの所に行けるのでは?
そう思った私は一点集中で、砂糖の匂いを追いかけた。
時々出くわす魔機を蹴散らしながら進んでいくと、最上階に出た。
しかし、警備が厳重で目玉に翼の生えた魔機が飛んでいたり、屈強そうなオーガが二体巡回したりしていた。
私は彼らに見つからないよう、階段の踊り場で息を潜めながら考えた。
こいつらがいるという事は、ムーニーが近くにいるんだな。
けど、数が多い。
うーん……あ、そうだ。
他のポーションを使えばいいじゃない!
そう思った私はポーションを取り出そうとしたが、パンパンに入っているポシェットが目に入った。
そういえば、この中にはロリンが開発した馬なし馬車の不純物として出た黒い塊が入っていたっけ。
これを使って何か出来るかな?
そう思って考えてみたけど、『投げる』ぐらいしか浮かばなかった。
ポーションか黒い塊か。
今後の戦闘の事を考えたら、ポーションは保存したい。
それに捜索して気づいたけど、パンパンに溜まっているポーションをぶら下げながら移動するのはめちゃくちゃ邪魔だ。
こんな薄い格好をしていると、歩いている時に脇腹とかにあたって、一瞬「ウッ!」ってなる事が何度かあった。
自分でもよくこんなお荷物をぶら下げた状態で、狭い地下トンネルを通ったり、たくさん魔機と戦ってきたなとは思ったけど……さすがにこいつらを消化せずにムーニーの所に向かうのは危険だ。
絶対に戦闘の邪魔になる。
でも、投げると奴らに見つかって……いや、今はそんな
私はタイミングを見計らって階段を上った。
そして、ここからはもうどうにでもなれ精神で、空を飛んでいる目玉に向かって投げた。
そのうちの一体が真正面にあたり、地面に落ちていた。
「ウオオオオオオ!!!」
それと同時にオーガが私に迫ってきた。
こっちに向かう前に今度は黒い塊をいくつかバラまいた。
すると、侵入者に夢中で気づかなかったのか、足を滑らせて転んでしまった。
これを見た目玉がどこかに飛んでいこうとしたので、私はすかさず黒い塊を投げた。
目玉の背後にあたって、ヨロヨロしながら壁にぶつかって落ちていった。
「ウガアアアア!!!」
物音を聞いて駆けつけたのだろ、大勢のオークやゴブリン達が棍棒を持って走ってきた。
両サイドから迫ってきたので、私は残りの黒い塊を全部まんべんなく転がした。
最初の一体が滑りそうになって、背後にいるゴブリンにぶつかった。
それがドミノみたいに連鎖していき、最終的に全員転んでしまった。
両サイドには、気絶したオーガとオーク、ゴブリンの絨毯が出来ていた。
「しゃあっ!」
私はつい嬉しくなってガッツポーズをしてしまった。
ここまで倒せば、後は楽にムーニーの所に行けるだろう。
ポシェットも信じられないくらい軽くなったし。
私は今までこんな重りを持って歩いてきたのだな。
さぁ、行こう。
私は奴らを踏みつけながら進んでいった。
砂糖の香りはまだしていた。
角を曲がって、誰もいない廊下を進んでいくと、「アハハハ!!」と聞き覚えのある笑い声がした。
あんなに派手にやったのに、呑気に笑っているという事は……まだ私がここに来ていることは知らないんだな。
だったら、好都合だ。
私はまだ周辺に魔機がいないか警戒しながら慎重に進んでいった。
笑い声は廊下の突き当りにあるドアから聞こえてきた。
古い木の大扉で、両側から開けられるタイプだった。
耳をあててみると、何か喋っている。
音が出ないようにソォっと開けてみた。
少しだけ隙間を作って覗いてみると、ムーニーがラムネ入りのフラスコをシャカシャカ鳴らしていた。
奴は背を向けているため、私に気づいている素振りはなかった。
ムーニーの向こうには、ティーマスとティーロが横一列で椅子に座らされていた。
両手首が肘掛けに固定されていて、背もたれの部分に大きな機械が付いていた。
ただの椅子ではない事は見て分かった。
「ねぇ、さっさと居場所を言ったらどう?」
この状態でもムーニーの憎たらしい声が聞こえてきた。
「誰が……はぁはぁ……お前なんかに……はぁはぁ……教えるものか!」
ティーマスが息を荒くしながら叫んでいた。
心なしか、前に会った時はギザギザの黒髪をしていたのか、ダランとだらしなく垂れ下がっていた。
ティーロの容姿は変わらず、無表情だったが、キラリと光るものが見えた。
汗だろうか。
「そう、仕方ない……」
ムーニーは溜め息をつくと、フラスコを持っていない腕を動かした。
すると、二人が座っている椅子にジジジと眩しい光と火花が散った。
「ぐあああああ!!!」
「ぐおおおおお!!!」
ティーロとティーマスが悲鳴を上げていた。
必死に手脚を動かして脱出を試みようとするが、拘束されているのでガタガタ揺れているだけだった。
「アハハハハ!!! ざ〜〜まぁ〜〜!!」
ムーニーがどんな顔をして、あの光景を見ているのか、容易に想像できた。
恐らくあの椅子に彼らを苦しめる仕掛けがあって、ムーニーが操作しているのだろう。
二人は暫く揺れた後、急に停止した。
ほんの少しだけ痙攣していた。
まるで、私がドラゴンに雷の一撃を食らわされていた時に似ていた。
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ティーロとティーマスを見つけられましたね!
このまま順調に助け出して欲しいです!
では、また次の話でお会いしましょう!
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