第20話 黒い騎士は生脚がお好き

「え、え、うぇ?! な、なんで?!」

 私が目を丸くしていると、黒い騎士は「不審者が地下室に向かうのを見かけたから」とロリンの方を指差して言った。

「ロ〜〜リ〜〜ン〜〜?」

 私が隣にいる姉を睨みつけると、ロリンは『しまった』という顔をした。

「そうだった。ポーションの効果継続中に違うポーションを食べたら、後の方に上書きされるんだった……」

 青ざめた顔でそう言った。

 つまり、先に透明化ポーションを食べた後、嗅覚を鋭くさせるポーションを食べたら、透明化の効果が消えたってこと?

 なんてミスをしてくれたんだ、ロリン。

 でも、こうなってしまったら仕方ない。

 黒い騎士と戦うしかない。

「ロリン! チョコ味のポーションを!」

 私が手を差し出してそう言うと、ロリンは「ハイ」とズボンのポケットから手渡してきた。

 それの数は足りているのね。

 というか、なぜ四角い箱じゃなくてポケットに入っているの?

 万が一の時のために忍ばせておいたのかな。

 なんて事を考えていると、黒い騎士が斬りかかってきた。

 私はすぐに口にして、右腕で剣を受け止めた。

 食べた直後だから効果が発動するか不安だったが、カキンという金属同士がぶつかる音が聞こえたので、即効性があって良かったと胸を撫で下ろした。

 けど、相手の刃を押し付ける力が強いのか徐々に後退していった。

 そうだ、ここで……。

 私はロリンに『力のポーションをちょうだい!』と言いおうと思ったが、寸前の所で口をつぐんだ。

 もしそれを食べたら、硬化の効果が無くなって斬られる可能性があったからだ。

 防御力を失うのは怖いので、私も負けじと力を込め、一旦弾き返した。

 が、また振り上げて来たので、今度は左腕で受け止めた。

 今度は黒い騎士と私の力が拮抗しているのか、鍔迫つばぜり合った。

「ほう、腕で受け止めるとは……なかなかやるじゃないか」

「そっちこそ」

 私は刃を押し出して、鎧の腹部に一発あてた。

「グッ?!」

 黒い騎士は若干後退りしていたが、倒れる事なく、へこんだ部分を撫でていた。

「頑丈な鎧をへこませるとは……相当硬い拳をお持ちのようだ」

「降参するなら今のうちよ」

「それはこっちのセリフだ!」

 突然黒い騎士の動きが早くなった。

「うらっ! らららららっ!!!」

 剣を振るスピードも上がっていき、腕だけでは受け止めきれなくなってきた。

 徐々にドレスが傷ついていくのが分かる。

「どうした?! さっきまでの強がりはどこにいった?!」

 黒い騎士は完全に優勢と見たのか、私を嘲笑っていた。

 剣技は加速していき、剣を真っ直ぐに向けて突進してきた。

 両腕をクロスさせて受け止める。

 鋼鉄の身体ではなかったら、今頃串刺しにされていたと思うとゾッとした。

「ハハハハハ!!! 死ねぇい!!」

 黒い騎士が私の腕を刺すつもりで力を強めてきた。

 私はそうはさせまいと抵抗するが、刃の側面に比べて弾き返せる力が限られているからか、うまく出来なかった。

 あとどれくらいでポーションの効果が切れるか分からない。

 このまま――と負けを覚悟した瞬間。

「フレーーー!! フレーー!! メタちゃーーーん!!!」

 明らかに殺伐とした雰囲気に相応しくない声が聞こえた。

 チラッと声のした方を見ると、ロリンがリュックをおろして、いつの間にかバニラ色の半袖と丈の短いスカートに着替えていた。

 手には何か丸っこいものを持っていた。

「フレー! フレー! メタちゃん! 頑張れ、頑張れ、メタちゃん! 負けるな、負けるな、メタちゃん!」

 丸いものを動かしながら足を上げたり下げたりしてきた。

 私の応援でもしているのだろうか。

 いや、それをする暇があるなら早くティーロとティーマスを探せよ。

 私がそう言おうとしたら、剣の力が弱まっている事に気づいた。

 今度は正面を見ると、黒い騎士の剣や身体が震えていた。

「な、なま……な、なまあし……」

 目線は私ではなく、ロリンの方を見ていた。

 ははーん、なるほど、なるほど。

 そういうことね。

「ロリン! もっと激しく応援して!」

 私がそう言うと、ロリンは嬉しそうに「ガンバっ! ガンバっ! メーーターーちゃーーーーーん!!」とミニスカートをヒラヒラさせながら踊っていた。

「なっ?! ガベブボッ?!」

 すると、黒い騎士の口元で覆われた鎧からポタリポタリと何かが垂れていた。

 地面を落ちると、彼の足元に赤い水玉が出来ていた。

 私は軽く力を押すと、黒い騎士は口元を抑えながらよろめいていた。

「ねぇ、どうしたの? 攻撃してこないの?」

 私がそう聞くと、黒い騎士は「も、もぢぶぉんだ!!」と若干聞き取れない声で返事をして、剣を構えた。

「フレーー!! フレーー!!」

 しかし、ロリンの軽快な踊りに気を取られていて、全く私に集中していなかった。

「来ないならこっちから行くね」

 私はそう言って走り出した。

「おらおらおら!!」

 完全に油断している黒い騎士の胴体は隙だらけで、ここぞとばかりに連撃した。

「ごっ、がっ、がはっ!!」

 黒い騎士は苦しそうな声を上げるが、視線はロリンに向いたままだった。

「余所見してるんじゃねぇよぉおおおお!!!」

 絶好のチャンスなので、ありったけの力を込めて胴体に連打した。

「ぶぐっ! ガババババ!!!」

 黒い騎士は変な断末魔を上げ、剣を落とした。

「おらぁ!」

 仕上げに奴の顔面にトドメの一撃をぶつけた。

「ぐ、ぐぎゅう……」

 その一撃がかなり効いたのか、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと酔っ払いみたいに歩いた後、静かに仰向けに倒れた。

 鎧は私の鋼鉄な拳でボコボコになり、彼のへっこんだ顔面から血(たぶん鼻血)が溢れていた。

「やったね! メタちゃん!」

 ロリンはそう言って抱きついてきた。

 いつもだったら、すぐに突き放そうとするが、今回ばかりはロリンのおかげで助かったので、暫くの間は彼女の好きにさせる事にした。


↓宣伝の妖精からのお知らせ

本日は足元の悪い中、お集まりいただきありがとうございます。

チュピタンです。

これより、会見に移させていただきます。


まずは……えっと、私の身勝手な行為で某メンバーのみならず、彼が所属しているアイドルグループ、その他関係者、ファンの皆様に多大なるご迷惑をおかけしましたこと、深く反省しております。


誠に申し訳ございませんでした!


えっと……あの……こんな状況ではございますが、宣伝と感想をさせていただきます。


はい、では……皆様、フォローはお済みでしょうか?

もしまだの方がいらっしゃいましたら、ぜひご登録をお願いします。

また、この作品を面白いと思ってくださいましたら、応援と星をよろしくお願いします。


感想は……ロリンの生脚が見られて良かったです。


すみません! 不謹慎な感想になってしまいました……では、質問に移らせていただきます。


はい、私が楽屋に侵入した経緯は報じられた通りです。


嘘偽りなどございません。


はい、はい……彼を心の底から愛していました。


今は……今は……憎しみしかありません。


どうして私ばかりこんなに責められなければならないのでしょうか?


そもそも彼らが年内解散しなければ、私が求婚する事も楽屋に侵入する事もなかったのに……。


許せない……許せない……許せなあああああい!!!!


おい、某メンバー!!!


今からお前の家に行って、てめぇの腹にハサミでグッサグッサ刺すから覚悟しろ!!!


お前の住所はとっくに特定してるんだよ!


言っとくけど、逃げても無駄だからなぁ?!


私は絶対にお前を追い詰めて、地獄の苦しみを与えてやるからなぁあああああ!!!!


おい、やめろ! 離せ!!!

嫌だ! 牢獄なんか戻りたくない!

某メンバー! おい、某メンバー!

絶対に! 絶対に!

ぶっこ、ぶっこ、ぶっころ……。

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