第19話 地下牢に囚われてしまった
「このっ! 離しなさい! このっ! このっ!」
私が口でそう叫んだ所で無駄と分かっていたけど、もしかしたら言う事聞いてくれるかなと思い、叫んでみた。
だけど、予想通り淡い期待だった。
彼らは私が見えていないかのように無視し、廊下を進んだあと突き当りの階段を降りていった。
ズシンズシンと揺れる度に、まるで地獄の方に降りているみたいな心地になって、ますます叫んだ。
段々辺りは暗くなっていき、カビの臭いがしてきた。
劣悪な環境に入った事は明らかだった。
埃が私の口の中に入ってきたのか、何度も咳き込んでしまい、叫ぶのをやめた。
そうこうしていると、牛頭はピタッと立ち止まり、しゃがんだかと思えば私を片手でおろして、ポーンと投げられてしまった。
「ふぎゅっ!」
地面に激突して、まるでカエルが潰れたかのような声を上げると、私の視界に牛頭が鉄格子の入り口に鍵をかけている所が見えた。
この時、ようやく身体の自由が効くことが分かった私はすぐさま立ち上がり、奴に掴みかかろうとしたが、寸前の所で避けられてしまった。
「ねぇっ! ここから出して! お願い! 出して!」
私がそう叫んでも、牛頭は相変わらず無視を貫いていた。
ズシンズシンと足音を響かせながら去っていた。
「バーーーーーカーーーーー!!!!」
私は去りゆく屈強な背中に向かって罵声を浴びせたが、一切方向転換する事なく行ってしまった。
「はぁ……」
私は鉄格子を掴んだまま膝から崩れ落ちた。
どうしてこうなった。
ムーニーがあの三つの頭のドラゴンに乗って来る事ぐらい予想できたはずだ。
それにあの黒い騎士。
ムーニーとの会話のやり取りから察するに、恐らく大臣クラス――右腕とでも言った方がいいのかな――で、かなりの実力者だ。
そいつが戻ってきて、私達に襲い掛かってくる事も考えられたはず。
やっぱり、突入直前の数分間の作戦会議だけじゃあ、詰めの甘い所がたくさんあったわ。
「はぁ……はぁ〜〜あ……」
私はもう一回溜め息を尽き、地面に座り込んだ。
鉄格子の外を確認してみると、他にも似たような部屋がある事から、ここは地下牢らしい。
いつ作られたか分からないけど、あののほほんとしていた国でもこういう物騒なのはあるのね。
そういえば、ティーロとティーマスはどこに行ったのだろう。
確かドラゴンの攻撃にトドメを刺されて、身動き取れなかったはずだけど。
もしかして、変な実験室に連れて行かれて、色々と改造させられているのかな。
そんな事を考えていると、一瞬だけ脳裏に嫌な思い出が過ぎった。
気のせいだと思ったが、今度は仮面を被った顔がフラッシュバックされた。
それを見た瞬間、全身に鳥肌が立ったのが分かった。
さらに追い打ちをかけるようにこの陰鬱な空間の至る所に、猿の仮面が現れた。
四方八方から
声は男だったり、女だったり、子供だったり、老人だったり、魔物みたいに不気味だったりと変化していった。
その声を聞くと、私の身体が段々小さくなっていくのが分かった。
遠い昔、私が幼い時に戻っていくような感覚がした。
猿の仮面……地下室……。
私は……そこで……。
「メタちゃん?」
いきなり誰かに呼びかけられ、私は我に返った。
いつの間にかロリンが目の前に立っていた。
「ロリン……?」
私はまだ夢でも見ているかのような心地だった。
さっきの幻は一体何だったのだろうか。
こんな汚くてカビ臭い環境にいたら、誰だっておかしくなる。
「はぁ」
私は大きな溜め息をついた。
ふとロリンだけしかいない事に気づいた。
「ティーナと職人達はどうしたの?」
まだフワフワした感じで聞くと、ロリンは「秘密の隠れ家で待機しているよ」と教えてくれた。
秘密の隠れ家――あぁ、ソファが三つある所ね。
あそこって、そんなに広くなかったはずだけど。
けっこうな人数がいたから、きっとギュウギュウになっているんだろうな。
なんか想像しただけで、面白くなってきた。
「アハハハ!!」
思わず腹を抱えて笑ってしまった。
すると、ロリンが真面目な顔で「メタちゃん、これ食べて」とポーションを渡してきた。
私はしゃっくりしながらそれを受け取ると、言われた通りにパクっと一口で食べた。
すると、奪われたように笑いが引っ込んでしまった。
あっという間に頭が冷静になった。
「私……どうなってたの?」
「地下牢に漂うカビが体内に入り込んで、メタちゃんの笑いのツボを押したせいで、大爆笑させられていたんだよ」
何それ、カビ如きで笑い
早いとこ出よう。
「さぁ、ティーロとティーマスを探しに行きましょう!」
私が立ち上がってそう言うと、ロリンは安堵したような顔をした後、「うんっ!」と鉄格子のドアを開けた。
そういえば、どうして私が地下牢にいるって分かったのだろう。
私がそう聞くと、ロリンは「嗅覚が鋭くなるポーションを食べて、メタちゃんの匂いを嗅いで探したのよ」と鼻を指差して言った。
私の匂いで探した?
そんなに臭っているのかな。
自分の右腕の部分の匂いを嗅いでみるが、イチゴミルクの甘い香りがした。
うーん、いい香り。
あんなに動いたのに、まだこんなに良い匂いがするなんて。
その香りのおかげか、頭の回転が早くなったような気がした。
「ねぇ、ロリン。まだその犬並に嗅覚が発達するポーションの効果は続いているの?」
「え?……うん、まだね」
「じゃあ、捕まっている二人の匂いとかも辿れば、居場所が分かるかもしれない」
私がそう言うと、ロリンは「確かに」と頷いて、鼻をヒクヒクさせた。
「ちょっと待っててね。数回しか会っていないけど……うん、何となくこれっぽいのを見つけたよ!」
ロリンが満面の笑みで私に報告してきた。
そのわりには随分不安な所があるけど。
でも、無いよりはいいか。
「じゃあ、行こう!」
「おー!」
私とロリンは拳を突き上げた。
けど、その前にやらなければならない事を思い出した。
「そうだ、ロリン。透明化のポーションをちょうだい」
私がそう頼むと、ロリンの動きが止まり、「えっと……もうないのよ」と気まずそうな顔をして言った。
「え? どうして?」
「ほら、職人を助ける時に使っちゃって……あと、私が戻る時に食べたのが最後の一個だったから……もう無いの」
嘘でしょ、スムーズに探せないじゃないの。
私が不安そうな顔をしているのが分かったのだろう、ロリンは「大丈夫! 敵だと思う奴の匂いも分かるから、その匂いがしたら避けていけばいいよ!」とグッと親指を立てた。
うーん、ますます不安だ。
まぁ、見つかったら殴って気絶すればいいか。
私はそう思いながら歩こうとした――が、「そうはさせんぞ」といきなり黒い騎士が私達の前に立ちはだかった。
↓宣伝の妖精からのお知らせ
どうも皆様、ピリタンです。
私が出てくるという事はご想像の通りです。
チュピタンはまだ現役でご活躍されているアイドルグループの楽屋に忍び込み、芸能界引退を表明された某メンバーに執拗に求婚を迫ったとして、逮捕されました。
そりゃそうですよね。
だって、解散まで半年以上ありますし。
早とちりも良い所です……ですが、上からの尽力に働きかけてくれたおかげで、告訴はせず書類送検だけで済みました。
明日、謝罪会見を開くとのことです。
では、それはそれとして、宣伝に参りましょう。
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感想は……地下牢は嫌ですね。潔癖なんで。
では、また次回。
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