第13話 あなた達は一体何者?

「ぎゃああむぶぶぶぶ!!」

「シーー!!」

 私が悲鳴を上げようとした所、ロリンに無理矢理口をふさがれてしまった。

 そのちょうどに、魔機達が首なしボディの所に集まっていた。

 何かを観察するようにジロジロと見た後、周囲を確認していた。

 どうやら頭を探しているらしい。

 見たくないけど、チラッと女の子の方を確認してみた。

 小麦色の三つ編みをした可愛らしい顔立ちをしていて、ここの国民と同じく口元に黒い線があった。

 もしこれが生首じゃなかったら、もっと魅力的に見えていたと思う。

 けど、女の子が今にも泣き出しそうな顔をしていたので、少しでも彼女の不安を和らげようと、静かに拾って優しく抱きかかえた。

 うん、これほどまでに真っ平らなボディが役にたつとは。

 少女は拠り所を見つけたと言わんばかりに、すぐに私の鳩尾みぞおちらへんにおでこを擦りつけていた。

 身体がなくても震えている事は自分の目と身体に伝わる感触で分かった。

 そういえば、この子は魔機に追われていたけど、どうしてなのかな?

 それと生首が外れる事と何か関係があるのだろうか。

 なんて事を考えていると、ゴブリンの魔機が路地裏の方に向かってきた。

 ロリンがギュッと私の腕を握ってきた。

 まずい、今の状態で見つかったら、確実にバレる。

 高まる緊張感。

 自然と少女の首を手放さないようにしっかりと抱きかかえていた。

 ゴブリンが一歩、二歩と近づいていく。

 もうすぐ中に入ろうとした――その時。

「おい、お前ら」

 急に男のような低い声が聞こえた。

 この声に気づいたゴブリンが振り返ったかと思えば、奴の胴体が剣で貫かれてしまった。

 ズバッと引っこ抜かれて、風穴ができた。

 バタンと仰向けに倒れるゴブリン。

 何度か痙攣した後、パタリと動かなくなった。

 ゴブリンの前に黒いマントを付けた男が立っていた。

 髪は半分隠れていて、ギザギザの黒髪が印象的だった。

 彼はチラッと私達の方を見てウインクした後、マントをバサッとたなびかせ、背を向けた。

「全員ぶちのめしてやる」

 彼はそう言うと、魔機達に斬りかかっていた。

 これにより、辺りは騒然となった。 

 さすがに行き交う人々もこれには逃げたリ、怯えた顔をしたり、遠巻きに見たりと各々の反応をしていた。

 彼はオークの棍棒を剣で弾き返したり、二人がかりで襲ってきても横に薙ぎ払っていっぺんに斬ったりしていた。

 その様子からかなりの剣の達人である事は分かった。

 けど、私は言いたい。

 なぜ最初に路地裏にいるゴブリンに攻撃した。

 路地裏に誰かいるから見つかる前に殺していますって敵側に教えているようなものじゃない。

 普通だったらたくさん群がっている魔機のうちの一体を倒すべきでしょ。

 そしたら、必然的にゴブリンも彼に攻撃してくると思うし。

 けど、魔機達はそこまでの思考は持っていないのか、自分達に攻撃してくる彼ばかり目が行って、路地裏で隠れている私達には目もくれなかった。

 マントの男の顔をよく見ると、彼女と同じ線があった。

 彼もこの国の民なのか。

 なんて事を思っていると、わりと大きめのオークの魔機の頭がかち割られた。

 これも見た魔機の残党達は彼の剣技に恐れをなしたのか、倒れている仲間を助けもせず、逃げ出してしまった。

 国民はヒソヒソと彼の方を見て何か話していたが、また元通りになっていった。

 マントの男はスチャッと剣を鞘にしまうと、予想通り私達の所に来た。

「お怪我はございませんか? ティーナ王女」

 彼はそう言って、白い歯をキラリと光らせた。

 え? ちょっと待って。

 王女? この子、王女なの?!

 私が目を丸くしていると、少女はティーナという名前に反応したのか、必死に顔を向けようとしていた。

 私はすぐに見えるように正面に持ち、彼とご対面させた。

「ティーマス!」

 少女は彼を見るや否や、嬉しそうな声を上げていた。

「生きていたのね! 良かった……良かった……」

 ティーナはグスッと涙を流して彼の無事を喜んでいた。

「私がそう簡単に奴らにやられる訳ないだろ」

 ティーマスはそう言って、彼女の頬に手を触れた。

 何とも甘美な雰囲気が漂い、今にもキスが始まりそうだった。

「あの……」

 私は恐る恐る声をかけた。

「なんだい?」

 せっかくのムードを邪魔された事に少し腹が立っているのか、眉間にシワを寄せて聞いてきた。

「ティーナ……王女様でしたっけ? その方の身体がまだ道端で倒れているのですが……」

 私が恐縮そうに指摘すると、彼は「アッ!」と思い出したような顔をして、すぐに彼女の身体を取りに向かった。

 急ピッチで、おんぶするかのように路地裏まで運んできたティーマスは「ごめん、ティーナ」と申し訳なさそうな顔をして、私から彼女の頭を受け取って優しく抱きかかえた。

「いいのよ。私も気づかなかったし」

 ティーナは彼にそう微笑むと、首なしの胴体がムクッと独りでに立ち上がった。

 かと思えば、彼女の頭を受け取り、まるでペンのフタを付けるような感覚で、頭と胴体を合体させた。

 ティーナは首をコキコキと動かした後、腕を上げたり降ろしたり、脚をブラブラさせたりして、自分の身体の調子を確認していた。

 私はこの光景に呆気に取られていた。

 ロリンも同じで、目を大きく見開かせていた。

「あ、あなた達は一体何者なの?」

 私がそう聞くと、王女と剣士は互いの顔を見合わせた後、フフと笑った。

 何がおかしいのか、サッパリ分からない。

「もしかして、この国の外から来たんですか?」

 ティーマスにそう聞かれたので、私は頷いた。

「やはり、そうでしたか……という事はなんですね?」

「えぇ、まぁ、そうですけど……?」

 どう見ても人間でしょ。

 一体何が言いたいのだろうと思っていると、ティーナ王女が口を開いた。

「私達は人形なんです」

 人形――なるほど、そういうことか。

 道理で口元に線があると思った。

 あれはマリオネットやくるみ割り人形とかでよく見る切れ込みだったんだ。

 そう考えると、頭部のみで喋れるのも納得がいく。

 人形だから頭を外されても死なないんだ。

 ロリンも「へぇー、喋れる人形なんて初めて見た〜!」と興味津々といった様子で眺めていた。

 ティーナは「そんなにマジマジと眺めないでください」と照れた顔をしていた。

 ふとティーナが魔機達に追われている事を思い出した。

「ねぇ、王女様? なんで、さっき魔機……魔物みたいな奴らに追われていたの?」

 私がそう聞くと、二人の顔から笑顔が消えた。

「えっと……」

「それは……」

 二人の表情がたちまち暗くなったので、これは何かあるなと思った私は「何かお困りなら相談に乗るけど」と言ってみた。

「よろしいんですか?」

 ティーマスがパチパチと瞬きさせて聞いてきたので、私は「先ほど助けてくれたお礼です。遠慮なくドンッと!」と胸を叩いて言った。

 王女と剣士は互いの顔を見合わせた後、ティーナが「でしたら、ぜひ……ですが、ここだと奴らに見つかってしまいますので、我らの隠れ家にご案内致します」と言って歩き出した。


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さて、彼らがこの国の王女と剣士で、しかも人形だという事が分かりましたね!

という事は、ピグマーリオは人形の国……という事になりますね!


いいですね……私が小さい頃……百歳ぐらいまで大事にしていた人形があったのですが、お姉ちゃんにズタズタにされたのを思い出します……。


あぁ、もしあの人形がここにあったらお酒に溺れる事もなかったのに……。


……なんかブルーになったので、ここで終わります。


はたして、この国で一体何が起きているのか……次回をお楽しみに!

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