第10話 ご乗車の際は水着の着用が必須となっております

 道標を失った私達は亡霊のように彷徨った。

 いや、真っ直ぐに進んでいるけど、あの装置があるのとないのとでは、心理的な負担が全然違っていた。

 覚悟を決めて転移ポーションを食べようかと話し合ったけれど、やはりムーニーと三ツ頭みつがしらのドラゴンが気になって、徒歩を選ばざるを得なかった。

 出来れば、戦闘は避けたかったからだ。

 けど、どっちみち探してくるだろうから、奴が次なる手を準備する前に息の根を止めた方がいいのでは……いや、あのドラゴンを倒さない限り、ムーニーを仕留める事はできないだろう。

 今の所、魔機に有効なのは硬化のポーションだ。

 他にも何かあればいいんだけど……火は効かなかったし、口の中に炎を入れる作戦はムーニーの事だから何かしらの対策をしているからもう通用しないだろうし。

 それに三つのドラゴンヘッドはどうすれば倒せるの?

 火、雷、氷の猛攻を避けつつ攻撃するには……うーん。

 あーあ、本当にもうやんなっちゃうな。

 そうこうしていると、日が暮れてきた。

 このまま野宿か――と思っていると、遠くの方で灯りが見えた。

 近づいてみると、木造の小屋だった。

 こんな何もない草原に住んでいるなんて、この家の主は変わっているな。

 いや、そう決めつけるのは良くないか。

 柵の中に牛が何匹か寝ているのを見ると、ここには牧草みたいなのが生えていて、飼育環境が良いのかもしれない。

 私はロリンにこの小屋で泊めてもらおうと提案した。

 このまま夜道を進んでも、危険だと思ったからだ。

 ロリンは腕を組んで少し考えた後、「その方がいいね」と頷いた。

 私はすぐさまドアの方に向かい、ドンドンと拳で叩いてノックした。

「すみませーーーん! すみませーーーん!」

 そう叫びながら叩くが、うんともすんとも言わなかった。

 私はロリンの方を向いた。

「寝ちゃったのかな?」

「たぶんそうだね」

 嘘でしょ、せっかく良い所を見つけられたと思ったのに。

 でも、無理やり起こすのも悪いし……。

「仕方ない。適当な所を見つけて野宿しましょ」

 私は溜め息をついて、ドアから離れた。

 すると、背後からギィと開く音がした。

 振り返ると、ドアの隙間からひょっこりと皺くちゃのお婆さんが顔を出した。

「こんな時間に何のようだい?」

 しゃがれた声でそう聞かれたので、私は今日ここに泊めてくれないかとお願いした。

 お婆さんはジッと私とロリンを見ていた。

「まさか、あんたらメタメターナ王国から来たんじゃないだろうな」

 自分の国の名前を呼ばれて、内心ドキッとした。

「え、えっと……その……ち、違います! 私と彼女は旅芸人をしていまして……その……」

「嘘だね」

 私が動揺しているのを見透かされてしまったのだろう、お婆さんは弾き返すように言った。

「格好から見て分かる。位の高い格好だ。

 それに今日、おかしな女の子が屋根から落ちてきたんだ。

 そいつは痛そうに頭を擦りながら私を見ると『おい、お前! ここはどこだ!』と生意気な言い方で聞いてきたんだ。

 だから、私はカッとなって『それが歳上に話す時の態度か!』とほうきを持って振り上げたんだ。

 そいつは尻尾を巻いて逃げていったよ。

 私は追いかけて外に出たんだが、目の前に馬鹿でかい三つの頭の怪物がいてな。

 そいつは怪物のうなじに腰を降ろすと、『ピグマリーオへ!』と叫んで行ってしまったんだ。

 危うく腰を抜かす所だったよ。

 ほんとヤダヤダ……」

 お婆さんはそう言って、バタンと閉じてしまった。

 観察眼の鋭いお婆さんがブツブツと言って、なんだかんだで入れさせてもらえなかったけど、有益な情報を得る事ができた。

 ムーニーが食べた転移ポーションはこの小屋に着地したんだ。

 そして、彼女の後を追いかけてきたドラゴンに乗って国に旅立った。

 ピグマリーオ――全然知らない国だ。

 その国を避ければ奴と会わずに……いや、ちょっと待って。

 あいつに王子様の居場所を聞けばいいじゃない!

 なんでもっと早く気づかなかったのだろう。

 王子様がいる所を一番知っているのは、さらった側だ。

「メタちゃん? 急に立ち止まってどうしたの? お婆さんに色々言われてショックだった?」

 ロリンはドアの前でジッとしている私を心配したのか、顔を覗き込んでいた。

 私は彼女に今考えた事を伝えると、ロリンは「ナイスアイデアだよ、メタちゃん。じゃあ、早速……」と転移ポーションを渡してきた。

「でも、これを食べると民家に激突したりしない?」

 私がそう尋ねると、ロリンは「確かに」としまって、違う固形のポーションを渡してきた。

 暗くて色は分からないが、香りはレモンだった。

「これ、なに?」

「速く走れるポーション! 食べたら強制的に走るのが欠点だけど」

「夜、走るの? 危険過ぎない?」

「あー、それもそうだね。それじゃあ……」

 ロリンはリュックを開けて、抱きかかえるほど大きな長方形の箱を取り出した。

 スイッチを押して、地面に置くと箱がガシャガシャと音を立てて大きくなっていた。

 2メートルぐらいの高さまでになると、細長い箱みたいになった。

 頭に円柱の角みたいなのが生えていて、箱の側面には、小さな車輪が等間隔に一直線に付けられていた。

「これは……なに?」

「馬なし馬車」

「馬なし馬車?」

「うん、馬が無くても目的地まで移動できるの」

 何それ、馬がなくてどうやって人を運べるの?

 私が首を傾げていると、ロリンが「これを動かすのは……」と指をさしていた。

 車輪が付いていない方を前後とするなら、後ろに管のようなものが出ていた。

 一つは上向きで、もう一つは下を向いていた。

 そこにロリンはリュックから瓶を取り出して、上を向いた方の穴にトクトクと液体を注いでいた。

「何を入れているの?」

「作る途中で失敗した液体のポーション。これを入れると、馬なし馬車が動くの」

 そんなのを入れて動くの?

 なんて疑問を浮かびながらも、ロリンは管に液体を全部入れた後、乗車口の方に向かった。

 なぜかドアは一つ高い所に付けられていて、ロリンは階段をのぼるように上がって、「さぁっ! 入って!」と招き入れた。

 恐る恐る入ってみると、中は思っていたよりも狭かった。

 座席らしき所が壁にくっついているだけで、後は見た事もないようなスイッチや時計が何個も貼られていた。

 その前に不自然に椅子が一脚固定されていた。

 御者ぎょしゃもなしにどうやって動くのだろう。

 私が疑問に思っていると、「メタちゃん、これに着替えて」とドアの隙間から何かを渡してきた。

 受け取ってみると、水着だった。

 イチゴ柄のフリフリワンピース。

 いや、ちょっと待て、おいおいおい。

「私に殴られたいの?」

 殺気立った声で言うと、ロリンはドア越しに「いやいや、決して水着姿が見たい訳じゃなくて、その格好じゃないと目的地まで耐えられないと思うから渡したの!」と言ってきた。

 うーん、全然信じられないけど……まぁ、私好みの柄だし、王子と海デートする時の予習に着てみるか。

 そう思った私は手早くドレスを脱いで、水着に着替えた。

 ピッタリのサイズだった。

 本当にどんな方法を使って、私のスリーサイズの情報を入手したんだ。

「着替えたよ」

 私がそう言うと、ガチャッとドアが開いて、バニラ色のビキニを付けたロリンが出てきた。

「なんであなたも着替えているの?!」

 目を丸くして言うと、ロリンは「すぐに分かるよ」とリュックを私の隣に置くと、椅子に腰を降ろした。

 すぐに分かるって……どういうこと?

「それじゃあ、ピグマリーオへしゅぱーーーつ!」

 私の頭がチンプンカンプンになっている中、ロリンは意気揚々と叫び、棘みたいに飛び出たスイッチをグイッと押し込んだ。

 すると、ガタガタと揺れたかと思えば、たちまち中が暑くなってきた。


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まさかのお二人の水着が披露されましたね!

個人的に水着は大好物なので、これからもちょくちょく登場して欲しいです!


それにしても馬なし馬車……凄い発明ですよね。

さすが『叡智』と呼ばれるだけありますね!


はたして、二人は無事にピグマーリオに着くのでしょうか?


次回までのお楽しみ〜!

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