十二女〜天才〜編

第4話 新たな姉、襲来

「なになになに?! 何が起きたの?!」

 ロリンはこの緊急事態に動揺していた。

 そこへピニーが球体を持って来た。

 彼女はそれを奪うように取り、出っ張りを押した。

 また幻が姿を現した。

 そこには我が城の廊下や食堂が浮かび上がってきたが、ピニー以外に見慣れないロボットがいた。

 いや、ロボットなの?

 オークやスライム、ゴーレムのような見た目をしているけど、全身は真っ白で光沢感があり、口から炎を出したり電流を流したりして暴れていた。

 ピニー達は必死に炎を出して抵抗するが、まるでバリアを張っているかのように燃えず、むしろ返り討ちにあっていた。

「ねぇ、あれは何なの?」

 私が聞いても、ロリンは「私もあんなの初めて見た」と口をあんぐりと開けていた。

「へぇ、こんな所に秘密の研究室があったんだ」

 すると、いきなり私とロリン以外の声がすぐ近くから聞こえてきた。

 私達はほぼ同時に同じ方を向いた。

 そこには見た目10歳くらいの白衣を着た少女がパフパフとサイズ違いの大きめの靴をはいて歩いてきた。

 彼女の手にはフラスコを持っているが、中に豆みたいなサイズの球体がギッシリと詰まっていて、彼女はポンッとコルク栓を外して手のひらに数粒乗っけると、一気に口の中に放り込んだ。

 モグモグとそれを食べながらジロジロと広間にある設備を眺めていた。

 周りにいたピニー達は彼女に一切攻撃して来なかった。

 皆、ギュッと固まって震えていた。

 私は彼女に見覚えがあった。

 というか、私の姉だ。

 あのラムネ色のショートヘアの上に、レンズが分厚いメガネを乗っけているのは間違いない。

「ふ〜ん、なかなか凄い設備が揃っているね。

 ピニー達の数もハンパじゃないし……兵器でも作る気?」

「なぜあなたがここにいるの?……ムーニー!」

 ロリンが睨むと、ムーニーはまたフラスコから数粒を乗っけて食べた。

「へへへ……何を言っているの? ロリン

 ここは我が家なんだからお家に帰るのは当然でしょ?」

 ムーニーはクチャクチャ食べながら笑っていた。

 そうだ、こいつは確かロリンより年下だったっけ。

 いや、今はそんな事はどうでもいいや。

「何しに来たの? 王子様とイチャついているんじゃないの?」

 私がそう聞いた時、さっきまでヘラヘラしていた顔から一変、敵意剥き出しの顔に変わった。

「お前は黙ってろ、末っ子」

 今にも殺しにかかりそうな声に、ピニー達はさらに怯えていた。

 が、私は屈しなかった。

「はぁ? そっちから勝手に侵入しておいて、その態度はないんじゃない?」

 この一言にカチンと来たのだろう、眼を充血させて奥歯を食いしばっているような顔をした。

「お前いつからそんな生意気になったの? えぇ?! 私より年下のくせにその態度はなによ?! 末っ子のくせに!」

「はぁ? 一才だけしか歳が違わないでしょうが?!」

「うるさい! 年下は年下! お前より大人なんだよ!」

「大人? 見た目は完全にガキのくせに」

「ガキ……くぅうううううう!!! お前ぇええええええ!!!!」

 ガキと言われて腹が立ったのだろう、パフパフと靴を鳴らしていた。

「お前こそ、背は上でもスタイルは子供じゃない! この……つるぺったん!」

「つるぺたあああああああん?! お前も私とどっこいどっこいでしょうが!」

「二人とも、喧嘩はやめて」

 今にも取っ組み合いが始まりそうな雰囲気を察したのか、ロリンが真面目に制していた。

 これにより、私とムーニーはようやく口論を止める事ができた。

 眼はバチバチに火花を散らしていたけど。

 ロリンはハァと溜め息をついていた。

「……で、本当に何しに来たの? 私の秘密の研究室の見学に来た訳じゃないよね?」

 ロリンの質問にムーニーはハッとなって、「あぁ、そうだった」とフラスコからまた数粒を取って口に入れた。

(食べるタイミングおかしくない?)

 そうツッコミたかったが、また喧嘩に発展する可能性があったので、グッと堪えた。

 ムーニーはガリゴリと音を立てながら話し始めた。

「ここに来たのは他でもないの。あなたを迎えに来たのよ、ロリンお姉様」

「え?」

 ロリンは目を大きくさせていた。

 ムーニーはまた数粒放り込んで話し始めた。

「メタリーナお姉様から『王子様と私達姉妹のマイホームを作るからロリンの手を貸してほしい』って……直々の御命令よ」

 メタリーナ……13人姉妹の長女にして、最高の技術者。

 別名『帝王』。

 姉達の間でも畏敬の念を抱いている者もいるぐらい凄い存在。

 その姉から命令されたらロリンは従うのだろうか――いや、ちょっと待てよ。

 王子様と姉妹のマイホームだぁ?

 なんでそうなるんだ。

「ふざけるな! チャーム王子は私の婚約者なの! なんでお前達のものになるのよ!」

「はぁ? お前みたいな奴が王子様のお嫁さんにふさわしい訳ないでしょ」

「なっ――」

「メタちゃん、ストップ」

 私がさらに強い言葉で攻めようとした時、ロリンに止められてしまった。

 彼女は私の前に立つと、「せっかくのお誘いだけど断るわ」とキッパリと言った。

「……それはメタリーナお姉様を、我が一族を裏切るっていうこと?」

 ムーニーが険しい顔をして聞いた。

 ロリンはいきなり私を抱き寄せると、「最愛の妹の婚約者を奪うような奴らの協力なんかしたくないもん」と言った。

 私は恥ずかしいような嬉しいような複雑な感情が入り混じり、それを発散するために一発殴った。

 ロリンは「フィン!」と言って倒れた。

「……最愛の……妹?」

 突然ムーニーの身体が震え出した。

 手に持っていたフラスコがバリンと割れて、中身が全部落ちてバラまいてしまった。

「メタちゃん、これまずいよ」

 いつの間にか起きていたロリンが顔を真っ青にして言った。

 私の第六感も警鐘を鳴らしていた。

 めちゃくちゃ嫌な予感がする。

「なんで……なんで……」

 声だけで怒りが爆発寸前だという事が分かった。

「末っ子のくせにぃいいいいいいい!!!!」 

 ムーニーは広間に響き渡るぐらい叫んだ後、白衣のポケットからスイッチのようなものを取り出して、それを押した。

 すると、突然ガラガラと激しい物音と砂埃がはばかってきた。

 思わず立ち止まって、両腕を顔でおおってしまった。

「危ない!」

 ロリンに腕を引っ張ってくれたおかげで、瓦礫の下敷きにならずにすんだ。

 顔を上げると、辺り一面砂埃は漂っていた。

 ピニー達が狂ったように右往左往している。

「グォオオオオオ!!!」

 突然鼓膜が破れそうなくらい大きな咆哮が聞こえた。

 砂埃が少し晴れて現れたのは、巨大なドラゴンだった。

 いや、正確にはロボットのドラゴンだ。

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