第3話 姉からのプレゼント

 パフェの奥底にあるコーンフレークを食べ終える前に、ロリンは戻ってきた。

「め、メタちゃん……はぁはぁ、ちょっと……付いてきて!」

 ロリンは息せき切って私の腕を掴むと、走り出した。

 私は慌ててコーンフレークを食べ終え、空の容器を通りすがりのピニーに渡した。

 

 一緒に走って連れて来られた場所は、ロリンの研究室だった。

 ここにはビーカーやフラスコなどの実験器具はもちろん、変な臭いのする草や干からびた動物の脚など、ポーションの材料と思われるヘンテコなものをテーブルに蓄積されていた。

 確かここでポーションの作っている様子を小さい頃に眺めていた記憶がある。

「また新しいポーションでも作ったの?」

「チッチッチッ! ここじゃないよ」

 ロリンはそう言うと、奥の棚の方に向かった。

 中はビーカーがビッシリと敷き詰められていたが、ロリンはその中から一個だけ取った。

 すると、ゴゴゴという地響きと共に棚が勝手に動き、空っぽの洞窟が現れた。

「さぁさぁ、入って!」

 ロリンに促されるがままに入ると、ただの穴だった。

 天井が妙に高くて、地面が鉄みたいに硬い。

「ねぇ、何のために……」

 私が質問し終える前に、ロリンは慣れた手つきで壁に触れると、パカッと開いてボタンが現れた。

 ポチッと押すと前の棚が勝手に閉まり、急に地面が動き出した。

「な、ななななな何これ?!」

「地下に行くための移動手段だよ」

「移動手段?」

「動く床か階段だと思ってくれたらいいよ」

 なるほど……魔法みたい。

 私が地面に腰を降ろしている間に揺れが収まった。

 ロリンが穴から出たので、私もついて行った。

 そこは巨大な広間だった。

 天井が馬鹿みたいに高く、ピニー達があっちこっちで火花を出しながらトンカチを持って作業していた。

 一体何をしているんだ。

「で、こんな所に連れてきて何を作ったの?」

「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれたぞ、メタちゃんよ。これを見たまえ!」

 ロリンが指を鳴らすと、彼女の背後にいたピニー達が一斉に離散した。

 ドレスだった。

 私と同じくらいのサイズのマネキンに着られていた。

 真っ赤なイチゴをベース天の川のように練乳色が線を引いている。

 デコルテは控えめで、フリフリのレースとかもあった。

「か、可愛い!」

 私は駆け寄り、マジマジと眺める。

 ロリンは嬉しそうな顔をしていた。

「でしょ、でしょ?

 メタちゃんに気に入ってもらえるように、こっそりタンスから下着を……ゲフンゲフン、じ、自分でデザインしたんだ〜!」

 なんかとんでもない犯罪を暴露したような気がするが、それが気にならないくらいこのドレスが気に入った。

「でも、なんで作ったの?

 服なら王国のクローゼットにいくらでもあるじゃない」

「チッチッチッ、違うんだな……よし、お願い!」

 ロリンがまた合図すると、ピニーが手から火を放った。

 それはドレスに被弾し、全てを覆ってしまった。

「えええええ?! な、なんで?!」

 姉に早く消せと言ったけど、ロリンはニヤニヤしながら「ちょっと見てて」としか言わなかった。

 少しだけ待ってみると、火が完全に消えた。

 だが、ドレスはまるで火事にあっていないかのように、新品のままになっていた。

「えぇ?! なんで?!」

 私が目を丸くなっていると、ロリンは予想通りの反応に嬉しそうな顔をした。

「これはあらゆる耐性のポーションを染み込ませた糸で編んだ超特製の最強ドレスよ」

「あらゆる耐性? 具体的にどんな?」

「火はもちろんのこと、水、風、雷、魔法など――あらゆる攻撃から身を守ってくれるの」

 なにそれ、チートじゃん。

「さらに! さらに!」

 ロリンがテーブルの上に置いたあったボタンを押した。

 すると、地面から箱みたいなものが出てきて、宙に浮かんだ。

 そして、私の目の前まで来ると、パカッと開いた。

 パンプスだった。

 ドレスと同じイチゴ色でミルク色の線の模様が入っているものだった。

「これは?」

「それも特製の素材で作った靴。

 長時間歩いても疲れないし、どんなに歩いても靴が擦れることが無い。

 とても頑丈で、しかも通気性も抜群だから暑い所に行っても蒸れない」

 へぇー、なんて便利な靴なんだ。

 試しに履いてみると、ジャストフィットしていて、非常に歩きやすかった。

 これならどんなにジャンプして脱げる事もなさそうだ。

 これを私がイチゴパフェを食べている間にやったのか。

「さすが『叡智えいち』って呼ばれているだけあるね」

 私がそう言うと、ロリンは「へへへ〜! そうかな〜?」と身体をフニャフニャさせていた。

 そのあまりの気持ち悪さに褒めたことをちょっと後悔した。

「ありがとう。早速着替えるね」

 私はマネキンに近寄り、ドレスが熱くないか確認した後、試着室へ移動――したいと思ったけど、どこにもなかった。

「後ろ向いてて」

 私は睨みつけるようにロリンに言った。

 彼女は素直に背を向けた。

 その間にウェディングドレスから超特製のドレスに着替えた。

 ロリンが「あはは♡ 生着替えだぁ」とブツブツと呟いていた。

 ロリンは『叡智』じゃなくて『エッチ』の間違いじゃないかなと思うけど――まぁ、いいや。

 気にせず着よう。

「もういいよ」

 私がそう言うと、ロリンは鼻血を垂れながらしながら向いてきた。

 なぜそうなったのかはあえて聞かないでおこう。

「おぉ〜! メタちゃん、似合っているよ!」

 ロリンは鼻血を拭きながら私の衣装を褒めた。

 すると、ピニーが大きなリュックを彼女に差し出した。

 ロリンはお礼を言うと、ヨイショっと言って背負った。

「じゃあ、行こうか」

「え? あなたも付いていくの?」

 私が戸惑っている事にロリンはパチパチと瞬きしてポカンとした顔をした。

「むしろ一人で行く気だったの?」

「でも、これは私の問題だし……」

「お姉ちゃんにも協力させて。私も前々からあいつらの事が気に食わなかったの」

 ロリンはまた真剣な眼差しで私を見ていた。

 よくよく考えてみると、確かに協力者もいたほうが姉達に勝てる確率が高くなる。

 こんなドレスやポーションを作っている人が味方にいたら百人力だ。

 寝泊まりの時が心配だが、その時は寝る所を分ければ問題ないか。

 最悪襲われても殴ればいいし。

「分かった。協力して」

 私が頷くと、ロリンは嬉しそうな顔をして「じゃあ、王子を助けにしゅっぱーーつ!」と拳を上げた――その時だった。

『警告! 警告! 侵入者! 侵入者!』

 突如広間に警告音が鳴り響いた。

 

↓宣伝の妖精からのお知らせ

皆さん、こんにちは!

昨日パフェを食べ過ぎてお腹を壊したチュピタンです!


早速ですが、この作品のフォローはお済みでしょうか?

もし『まだ登録してないよ〜!』という方がいらしたら、ぜひフォローしてください!

また面白いよと思ってくださったら、お星様とハートをください!


ロリンの発明、凄いですね!

最強のドレスとパンプスがあれば、メタ無双が始まるんじゃないでしょうか!


警告音がうるさかったですけど、誰か侵入してきたのでしょうか……でも、一体誰でしょう……空き巣? 下着泥棒? 強盗?


うーん、気になる方は次回をお楽しみに!


あ、分かった! お姉……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る