魔女
「うわぁぁ!」
俺はそんな異常な光景に腰を抜かし後ろに倒れた。
な、なんなんだこいつ…顔が無い?!ありえない、理解できない現象が目の前で起こっている。
目の前でブランコに座っている顔の無い少女は漕いでいたブランコをゆっくりと止め立ち上がった。
逃げろ!本能がそう訴えかけてくる。だが思考に反して体が動かない。
顔の無い少女がゆっくり、ゆっくりと俺に近づいてくる。手を伸ばせば触れられる距離まで近づいてきた。それを見ていると真っ黒な顔の穴に呑まれてしまいそうになる。そして
「縺ュ縺??∫ァ√→驕翫⊂?」
顔の無い少女が意味のわからない声と呼べない何かを発声した瞬間、俺は弾かれたようにその場から逃げ出した。
なんだあれなんだあれなんだあれ!?!?
やばい!絶対にやばい!
「縺ゥ縺?@縺ヲ騾?£繧九??」
俺が必死に走り始めると顔の無い少女がまた意味のわからない何かを発した。ふと後ろを見てみると少女の顔の穴から腸が伸びていた。それは重力を無視し少女の周りを守るように囲んでいた。
あれは間違いなく人間じゃない。とにかく逃げないとどうなるか分からない。
俺はとにかく走った。さすがに高校生の俺の本気の走りに体格が小学生の女子が追いつけるわけが無いだろう。そうタカをくくっていたのだが、そんな希望はあっさりと打ちひしがれる。
ふと後ろが気になり左半身を後ろに引くように後方を確認してみた。すると俺の3メートル程後方に少女が居た。少女の足は地面に着いていなかった。体は吊り上げられているかのように不自然に浮いていて四肢はだらりと脱力している。
「じょ、冗談だろ…っ!」
すると突如少女の周りで浮遊していた腸が不自然に動いた。
なんだ?
次の瞬間、腸がムチのようにしなりながら俺目掛けて一直線に飛んできた。
「っ!」
後ろを向いていたおかげでなんとか避けられた。
「おいおい嘘だろ!?」
ムチのような腸が当たった地面は深くえぐれていた。ありえないだろ!この地面はコンクリートで出来てるんだぞ?!
それからも数回腸による攻撃を避けたが俺もそろそろ息が上がってきた。だが一向に少女との距離は離れていなかった。
「し、しつこすぎるだろ!いい加減に…あっ」
先程から後ろを確認しすぎたせいかちょっとした段差に気づくことが出来なかった。そのせいで俺は足を段差に引っ掛けて盛大に転けてしまった。
「ってぇ…はっ!」
こんなことしてる場合じゃない!あいつ…が…
少女との距離を確認しようと思い少女の方を見ると暗闇が目の前に広がっていた。いや、違う。超至近距離に少女の顔があるのだ。
「霑ス縺?▽縺?◆?」
あ、死ん
「たあぁぁ!」
どこからかそんな声が聞こえてきたかと思うと目の前に居た少女が勢いよく吹き飛び近くにあった壁に激突した。
「ギリギリセーフ!君!大丈夫?」
そこには綺麗な艶のある黒髪を腰まで伸ばし端正な顔立ちをしている少女が居た。さっきのは目の前にいる少女が顔の無い少女を蹴り飛ばしたのだ。だがありえない。こんな俺と歳の変わらなさそうな少女にどこにそんな力があるんだ?
「あ、あぁ、助かった」
そんなふうに感謝を伝えていると目の前の少女に見覚えがあることに気がついた。
「お前…
そこに居たのは同じクラスの泊里
「え?あ、嶋原君だったの?」
あちらも俺の存在に気づいたようだ。だが今はそんな偶然に驚いている暇はない。
「おい泊里、あいつなんなんだ?!」
「縺?◆繝シ縺?シ」
俺は壁に叩きつけられた顔の無い少女の方を見ながらそう言った。
「あいつは魔人。本来この世界には居てはいけない存在なの」
は?魔人?何言ってんだ?存在してはいけない?世迷言か?
「全く意味分からないよね。でも襲われた君なら嫌でも理解できるんじゃないかな?」
俺の心を見透かしたように泊里がそう言ってきた。確かに普通ならありえない少女をこの目で見てしまったのだから納得するしかない。
そんな悠長なことを考えていると顔の無い少女、魔人はゆらりと揺れながら再び宙に浮いた。
「谺。縺ッ縺雁ァ峨■繧?s縺?縺ュ」
相変わらず何を言っているのか分からない。だがあいつから逃げなければいけないことは明白だった。
「お、おい泊里!逃げるぞ!」
見たところ、魔人はあの強烈な蹴りを食らっても全く無傷だった。つまりこちらには対抗出来る手段がないということだ。そうなればなんとか逃げるしかない。
「あ、そっか。まだ嶋原君には言ってなかったね。私、魔女なの」
魔女?おとぎ話に出てくるような魔女か?今はそんな冗談を言っている場合じゃない。
「何馬鹿なこと言ってんだ!早く逃げるぞ!」
「あ!信じてないでしょ!」
当然信じられるわけない。そんなことを考えていると魔人が再びゆっくりと近づいてきた。
「もう…じゃあしっかり見ててよ!」
「み、見るって…何を…」
そう言いかけたところで泊里が声を上げた。
「紅蓮の炎を宿した人ならざる力よ、業火すらも飲み込む深紅の炎よ、ここに顕現せよ!我が名は『
泊里が訳の分からないことを叫んだ瞬間、辺りに眩い紅の光が広がった。それは泊里から出ているようだった。
眩しくて目を瞑っていたがゆっくりと開ける。そこには深紅の大きな魔女帽子とワンピースのような服装になった泊里が立っていた。そしてその手には大きな杖が握られていた。
「は、泊里?なんなんだその格好?」
「ふふ、驚いた?だから言ったでしょ。私は魔女だって」
そう言った泊里は魔人に向き直った。
「縺?o繝シ?∝℡縺?シ」
魔人は剥き出しの腸をムチのようにヒュンヒュンと振り回し始めた。振り回された腸は様々な場所に当たる。壁、地面、街灯。そして当たった場所全てを破壊した。一目見ただけであの腸に当たれば死ぬことは分かる。そんな恐怖の中、泊里は静かに魔人と向き合っていた。
「…」
「…」
嫌な沈黙が流れる。その間も腸が空気を切る音だけが響いていた。そしてまるで話し合いで決めたかのように両者同時に動き出した。
「『
そう言って泊里は杖を前に突き出す。その瞬間、杖から凄まじい勢いでとんでもない火力の炎が吹き出た。
「縺ゅ?縺ッ縺ッ縺ッ?∵・ス縺励>縺ュ縺?シ」
対する魔人は変わらず腸をムチ代わりに振り回し炎に伸ばした。だが伸ばした腸は泊里の放った炎によって溶けた。それを見た魔人は素早くその場から横に飛び退いて回避した。
「縺ゅ▽繝シ縺?シ」
「…避けたか」
泊里はそう言いながら魔人を睨みつけた。
「す、すげぇ…」
俺はそういうことしか出来なかった。目の前で起きている出来事があまりに現実離れしすぎて。
「どう?これで私が魔女だって信じてくれた?」
泊里は笑いながらそう言ってきた。
「あ、あぁ。それは十分分かった…」
そんな話をしていると先程焼かれて半分以上無くなっていた魔人の腸の傷口が蠢き出した。
「な、なんだ?」
そして傷口から勢いよく新たな腸が伸びた。
「なっ!」
か、回復したのか?!あの傷を!?
「やっぱり一筋縄じゃいかないか…さぁ!第2ラウンドだよ!」
あとがき
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