救世の魔男

はる

邂逅

叶希ときは魔女を知っているかい?」


なんだ?懐かしい声だ。誰だっけ?


「ん?おとぎ話に出てくる悪い魔女なら知ってるって?ははっ、確かにあれも魔女だ。でも今いる魔女は違う」


これはいつの記憶だ?記憶?そもそもこれは記憶なのか?


「じゃあ自分の知ってる魔女と何が違うのかって?」


声の主がどんな顔なのか分からない…だが何故だろう。この声を聞くと凄く安心する。


「それはね」


-------------------------------------------------

「…あれ、なんか夢見てた気がするが…思い出せないな」


気がつくとベッドの上だった。 枕の横に置いてあったスマホの画面を見るとそこには午前6時53分と映っていた。


「そろそろ起きるか」


そろそろ起きて学校に行く準備を始めないといけない時間だ。


この家には俺以外の誰も住んでいない。両親が海外に働きに行っているとかそういうことじゃない。俺には両親の記憶がない。誰が母親で誰が父親か知らない。


別にそれが悲しいことだとは思わない。俺にとっては両親がいないのが当たり前だったから。


俺は施設で育った。その施設では小学生の頃までお世話になった。中学生になってからすぐ施設の先生に通帳を渡された。中身を見てみるとそこには一生をかけても使い切れないような額が入っていた。話を聞いてみると俺が施設に入れられた時に、俺を施設に入れた人から預かっていたらしい。


俺はそのお金で自分の家を買った。肉親が居なかった為契約などめんどくさいものは施設の先生がどうにかしてくれた。


そして高校生になった今、俺は一人で生活しているというわけだ。


施設で暮らしているその時から俺には友達が出来たことがない。当然高校生になった今でも。それでも特に不自由に思ったことは無い。


今日もただ登校して授業を受けて帰るだけだ。


「それでは皆さん、気をつけて帰ってくださいね」


担任がそういうのと同時にクラスのみんなが帰り始めた。


俺も帰るか。


そう思い席を立とうとした時、担任から声がかけられた。


「あ、嶋原しまばら君」


「なんですか?」


「なんだか今日は委員会の仕事があるみたいよ?」


「分かりました」


帰れなくなってしまった。なんでもいいかと思い選んだ図書委員の仕事だ。内容は本を借りに来た生徒にどんな本を借りるのか確認してそれを記録するという内容だ。


本来なら今日は俺の担当では無いはずだが…誰かが今日学校を休んだのか?


そう思いながら図書室に向かった。


結局誰一人図書室に来ることはなかった。まぁいつもの事だ。特に用事もなかったしな。


下駄箱に向かい靴を取りだし履く。外はすっかり暗くなっていた。


「もう真っ暗だな」


そう思いながら歩いているとふと公園が目に入った。それは本当に何気なく見ただけだった。


「…子供?」


その公園には遊具が数個設置されていた。そのうちの一つにブランコがあるのだが、そのブランコに小学生くらいに見える少女が座っていてゆっくりとブランコを漕いでいた。


軋んだ音を鳴らしながら揺れるブランコに乗っている少女は俯いている。


迷子か?


さすがにあんな小さな子を見つけておきながら見て見ぬふりをして帰るのは気が引ける。仕方ない。交番にでも届けるか。


そう思った俺は公園に入り少女に近づいていく。その間も少女は俯きながらブランコを漕いでいた。軋むブランコの音がやけに大きく聞こえる。


そして少女の目の前に立ち声をかける。


「こんな時間に何してるんだ?迷子か?」


そう声をかける。


「…」


だが少女は反応しない。


「大丈夫か?」


そう言って肩に触れようとした瞬間、少女の顔が勢いよく俺を見た。


「は?」


俺はそう呆けることしか出来なかった。なぜなら


その少女には顔がなかったのだから。



あとがき


面白い、もっと読みたいと感じた人は評価お願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る