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「来た来た!早く一緒に見よう?」

「あぁ。」

「‥?仕事で何かあった?」


彼の表情が曇っているように見えた。仕事で重大なミスでもしてしまったのだろうか?だったら自分なんかに付き合ってる場合じゃない。


「何もない。髪、まだ濡れてるぞ。こっちに来い。」


お邪魔しますと挨拶をする前に腕を引かれて洗面に向かった。


「よその男がそんな薄着で濡れた髪を見たら連れてかれるかもしれないだろ。」


彼はドライヤーを手に取ると、慣れたように髪を乾かし始めた。



「大丈夫だよ。ここは最上階だし、悠月が来てくれるでしょ?」

「‥少しは危機管理能力を高めたらどうだ?」

「これでも高めですよ?」

「へぇ〜。自分の荷物を他人の車に忘れていく奴がねぇ〜?」

「あ!忘れてた!」

「俺にはどこが高いのかさっぱり。」

「ははは〜。人間だもの〜。そんな時だって‥。ね?あ、それにしても髪を乾かすのが慣れてますね?まさか彼女が出来たらすごく尽くすタイプ?」


気まずくて話を変えようとする。


「どうだろうな。大事にはする。髪はよく乾かしてたし、彼女の助けになるならなんでも協力はしたいと思う。」


ぶっきらぼうに見える彼から、意外な言葉が返ってきたことに驚く。


「そっか。悠月の彼女は幸せ者だね。」

「どうだろうな?直接本人には聞いたことないからわからない。」

「そこまで思ってくれるなんて幸せだよ。少なくとも私はそう思う。」

「そうか‥。」

「うん‥ってなんで顔赤くなってるの?!」

「ドライヤーの風がいつもより熱いせいだ。ほら。乾いたぞ。星を見るんだろ?」


綺麗に乾いた髪に満足すると、ベランダに向かった。リクライニングチェアを倒して夜空を見上げると、星たちがそれぞれに自分たちの場所を伝えるみたいにキラキラと輝いている。


「今日は一段と綺麗に見えるな。」

「悠月、ありがとう。」

「また、見たくなったらいつでも来ればいい。」


夜空を見上げながら今日の事を思い出していた。自分1人で伊織先生の警護が出来るのだろうか?そもそもなぜ1人なのだろう?先生みたいな有名人なら何人が必要じゃないか。気難しいから1人なのか?今日のところはそんな風には感じなかったけど。


「難しい顔、してる。」


眉間に悠月の人差し指が刺さる。


「何かあったか?」

「あぁ、うん、まぁ、ね?ちょっと今不安で。」

「不安になるなんて珍しいな。」

「ちょっと大きめの仕事で。上手くやれるのかなって。悠月は不安になったりする時ある?」


いつも飄々としていて掴みどころがわからない悠月のことだから、きっとそんな事を思った事は無いとは思うけど。


「そんなに多くは無いけど、ある事はある。自分がした決断が本当に正しいのか、今の道を突き進むのがベストなのか否か。そんな時はある。」

「それってなんだか、私の悩みよりも大きそう。悠月が責任感があって任せられるって上の人たちが安心してるからじゃない?そうじゃないと大きな仕事は任せられないと思うけど。」

「そうだといいな。」


少し重くなった空気を変えようと、悠月の頬を摘んで口角を上げた。


「困った時は笑っとこう!笑ってればいい事があるよ!」

「あ、あぁ。そうする。ちょっと近くないか?」

「あ、ごめん。」


月明かりでよくわからないけど、ほんのり悠月の顔が赤くなっている気がした。


「ちょっと、変な感じになったじゃない!せっかく明るくしようと思ったのに!」

「俺はそんな気はない。」


と言いつつも、どこかへ行く様子から今の状況を肯定している気がした。空を向くと流れ星が流れていることに気づいた。流れ星に願い事をすると叶うという言い伝えがある。急いで胸の前に手を組んで願い事を唱える。


「願掛けか?」

「今たくさん流れ星が流れてるよ!悠月も何か願わないと!」

「俺はいい。こう言うのは信じていない。」

「そっか。」

「何か願い事をしたのか?」

「まあ、いろいろと。」

「欲深いんだな。」


ケラケラと笑う姿を初めて見た。


「悠月、笑ってた方がいいよ。笑ってた方が親近感が湧くし。いつもより素敵に見える。」

「前にも言われた。」

「え?言ったことあったっけ?」

「‥大事な人に。」

「へぇ〜そんな人、いたんだ。どんな人?」


恋愛の〝れ〟の字も感じない悠月から聞く大事な人というワードは、新聞の記事になりそうなくらいに驚いた。


「いつも笑ってて、可愛らしくて、怒った顔が可愛い。たまに抜けてて、そそっかしくて。とにかく一緒に同じ時間をずっと過ごしたい人。」

「それ、すぐに告白しなきゃ!」

「なんでいきなりそうなる。振られる可能性だってある。そうしたら一緒に居れなくなる可能性だってある。それに‥。向こうは俺のことを覚えていない。」


悠月が目を伏せて、次第に声が小さくなっていた。


「ごめん。ちょっと言いすぎたかも。悠月にとって大事な人だってことはわかった。」

「いや、なんかいきなり思い出して喋ってしまった。俺らしくないな。」

「いいな〜その人。すんごく愛されてる。相談、いつでも乗るからね!嫌だったらいいけど。」

「相談する時があれば頼んだ。」


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2025年4月1日 23:00

アガペー 瑠璃川新 @Ruri-S

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