星衛悠月1

 外に出ると太陽はゆっくりと姿を消そうとしており、月や星が少しずつキラキラと輝いていた。行きと同じようにタクシーで帰ろうとも思った。しかし、たまには空を眺めながら帰るのも悪くないと考えてしばらく徒歩で歩くことにした。


「こんなとこで何してるんだ?」


聞き慣れた声が右から聞こえた。


悠月ゆづき?悠月こそ何してるの?」

「俺はこれから家に帰るとこだ。一緒に帰るか?」

「そうしようかな。」


悠月の車に乗り込むと自分のスマホとBluetoothを繋げてお気に入りの曲をかけた。


「今日、悠月の家に泊まっていい?」

「あぁ。」

「よかった。今日は星を眺めながら寝たい気分だったの。」

「何かあった?」

「今日の空、なんだかいつもより綺麗じゃない?ただ、綺麗だな〜ってボーッと眺めて眠りにつきたかっただけ。」

「今日はこと座流星群がよく見える日だからだろうな。」

「そうなのね。」


悠月とは、同じマンションに住んでいていつの日からか仲良くなって今に至る。一緒にいると昔からの幼馴染のような感じがして、気持ちが楽になる。彼は最上階に住んでいるため、いつでも綺麗な空を眺められる絶景スポットなのだ。


「私ももう少しお給料があれば、悠月の部屋がよかったな。」

「今もらってる給料じゃ満足出来ないのか?」


給料が少ない訳じゃない。本拠点が今のマンションで他に何ヶ所か持っているため、必然と高い場所ばかり借りることが出来ないからだ。こんな仕事じゃなければ、それこそ彼の部屋みたいなところが良かった。まあ、これは仕事の理由上話せない。


「う〜ん。まあ、少ないかも。だけど生活は出来るからギリギリかな。」

「仕事なら紹介できるぞ?」

「大丈夫。今の仕事が嫌いな訳じゃないし、それなりに楽しんでるから。悠月こそなんの仕事してるの?最上階って結構な価格じゃない。」

「世界の平和を守るヒーローとでも言っておこうか。」

「うわ〜。いつもそうやって適当に話す。」


お互いにどこに住んでいるかを知っているだけの関係。この付かず離れずな関係が自分たちには合っているのだろう。


話をしているうちにマンションに着いた。


「シャワー浴びてからそっちに行くから。また連絡するね。」

「そうか。てっきり俺の家で済ませるものかと。」

「何言ってんの!そんなことしたらお嫁に行けなくなるじゃない!」


時々彼は突拍子のない事を言う。というか、デリカシーというものがないのか……


「あと30分後くらいには見頃を迎える。今日は月明かりもそこまで明るくないからよく見えるはず。」

「へ?結構早いのね?2時くらいかと思った。それなら急がなきゃ!ごめん!急いでシャワー浴びるから玄関開けて待ってて!じゃあ!」


マンションまであと少しの距離だけど、赤信号を待てずに先に降りて一目散に走り出した。見頃な時間を教えてくれたんだ。外す訳にいかない。


「碧!ちょっ‥!はぁ、荷物忘れてるのに。あとで渡すか。」


仕事のバッグを忘れて飛び出すなんて、余程楽しみで仕方ないのだろう。本当は見頃までもう少し時間がある。一緒の時間を少し長くしたかっただけの嘘。また30分経てば会えるものの、寂しさを感じた。

碧が流していた曲も途切れた。家に着いたのだろう。静かな車内にピーピーという駐車する音だけが響いた。


「なんだ?」


碧のバッグから何かが落ちた。


「まさか、碧が‥?嘘だろ?」


信じたくない事実がカードには書かれていた。


「やっと見つけたのに‥。」


碧は自分と敵対する組織の人間だった。何度見直しても見間違いではない。


「っ!‥どうした?」

『どうした?じゃないよ!玄関開けて待っててって言ったのに開けてないから。早くしないと見れないじゃない。』

「すまない。まだ車の中にいて。仕事の話をしてたんだ。すぐ帰る。」


もしかして碧は端から自分の存在を知っていたのだろうか?だとしたら‥。

疑念を感じながら自宅へ戻る。存在を知っているのかどうか。探る必要がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る