思春期というものは、急に視野が広がる時期だと思うんですよね。それで、これまで気にしていなかったようなことが妙に気になったりする。ただ脳のスペックは子供のころとさほど変わるわけではないので、そこの齟齬が極端に出てしまう。
この作品は、そういう人たちの物語だと思います。視野が広がって、欠けていびつな自分を直視せざるを得なくなる。でも一方向からしか見れていない。欠けた部分をなんとかならないなりに何とかしようともがく、そういう人たちの。
ライトノベルとしては、まずつかみがバッチリ、500億点です。前提の抜けた不穏な状況から謎の少女との出会い。そして主人公すら記憶を失って何が起こったのかわからなくなる。そして、またも謎の少女のもとに導かれ、謎が解かれることになる。
安楽椅子探偵としても完璧です。特にこの本当にわずかでささいな手がかりから真相を見いだすのは魅力的です。ほかにも、安楽椅子探偵は一歩も動かずすべてを推理するという離れ業をやってのける以上、ある種の超然的なムードをもつことになります。その雰囲気も本当によかったので、これはわかる人が書いているやつだなと、なぜか上から目線になってウンウンとうなずきながら読みました。
青春ものとしても安楽椅子探偵ものとしても完成度の高い作品です。
それにしてもこの作品は、これを書いている時点で星が6しかありません。カクヨムではミステリは伸びにくいとはいえ、もっと高い評価を得てしかるべきだと思います。同作者の別作品「妖精の物理学―PHysics PHenomenon PHantom―」も、星が14しかありませんが、電撃文庫大賞の最終選考になっています。まだ世間に見つかっていないだけで、非常に優れた作品です。個人的には、ある日突然星の数が10倍とか50倍になっても、あまり驚きません。それだけの力がある作品だと思っています。