第一章;少年少女のアムネシア
①「そんな女生徒はいませんよ」
なんだか悪い夢を見ていたような、そんな気がしたんだ——
「――先生!患者さんが目を覚ましました!」
「バイタルに異常無し、意識レベル2ってところかな……ちょっと君、ご家族の方を呼んできて」
「……?」
気がつくと、周囲がザワザワしていた。
誰かが慌ただしく動き回っている音だ。
ボヤけた視界のなかに、白衣を着た人たちが映る。
そのひとりが、おれの目の前で手を振っていた。
眼鏡をかけた、いかにも優男って顔つきだ。
……こういうのを確か、塩系男子って言うんだっけ。
「こちらの言葉が聞こえますか?もしもし?もしもーし?」
「…………あ、はあ」
「うん、半覚醒ながら応答可能。では起き抜けで申し訳ないけど、幾つか質問させてもらうね」
言葉の意味がわからなかったが、考える気力も起きなかった。
「まず、名前を教えてくれるかな?」
「えっと……
「続けて、通っている学校と学年を言ってみて。あとよかったら部活動も」
「
「うん、基本的な受け答えは大丈夫みたいだね」
「……あの。なんですか、これ?」
おれがもやもやしていると――いきなり現れた金髪の女性に、両肩を強く掴まれた。
「――バカハルキ!アンタ大丈夫なの!?」
ゴリラのような握力でギリギリと締めつけられて……否が応でも目が覚めた。
「ねえ!アタシが誰だか分かる!?」
「イデデデッ!!なんだよゴリラ!あっ間違えた!!ごめん姉貴!おれは大丈夫だって!」
「わざわざ仕事休んで見舞いに来た姉に言う言葉がゴリラか!?ふざけてんのか?ああ!?」
姉貴が頬をひくつかせながら、顔を近づけてくる。
まぶたのアイシャドウがぐちゃぐちゃに汚れていることに気づいて、おれは申しわけなく思った。
でもそれはそれとして、右手でゲンコツを作るのはやめてほしい。
「あのー、頭はまずいと思いますよ」
「ボディーにしろってか?」
姉貴はぶっきらぼうに、先生の方へと振り向く。
「あっ……眼鏡優男で塩顔男子じゃん……無理……キュン死ぬ……」
一瞬で頬を赤らめると、回れ右してどこかに消えた。
「お姉さん、部屋から出ていったのだけれど」
「タイプの男性を見ると逃げ出すんです……習性みたいなものかと」
「感情表現が豊かなお姉さんだね」
「……ええ」
そう返すしかなかった。
「軽い冗談を言えるくらいには意識が回復しているね。うん、良かった」
嵐のような姉貴を見ていると、逆に気分が落ち着いた。
周囲を確認する。
白い病室、白いベッド、白い院内着……そして、おれを診てくれているお医者さん。
「ええっと、先生。おれ――ではなく、僕はいま、入院中なんでしょうか?」
「うん、そうだよ。あと、別にかしこまらなくてもいいからね」
「いえ、そういうわけにもいきませんので……寝ぼけて失礼なことを言っていたら、すみません」
「全くそんなことは無いけれど。屋代君がそう言うのなら、その謝罪は受け取っておくよ」
先生はなおも笑みを崩さない。
姉貴が惚れるのも無理はない、と思った。
「ところで、僕はなんで入院してるんですか?」
そんな先生の笑みが、さっと消えた。
「……もしかして、〈事故〉のことを覚えていないのかい?」
先生に指差されてからおれは――自分の頭が、包帯でぐるぐる巻きにされているのに気づいた。
+++++
「――あの日いつも通り、放課後のグラウンドに行った……ところまでは覚えています」
おれの一七年間におよぶ人生の記憶は――五月のある日を境に、ぶつりと途絶えていた。
「うん、お疲れ様」
クリップボードを携えた先生が、カリカリと筆記音を響かせる。
「ともかく、そこまではっきりと覚えているなら――〈事故〉以前の記憶は無事だね」
……どうやら二日ほど、ずっと寝ていたらしい。
部活動中に頭をぶつけて、
具体的には左側頭部をやられたらしいが、スキャンによると脳出血は見当たらない。
いまは機械では調べることのできない部分を、先生に診てもらっている最中だ。
「では、最後に質問させて貰うよ。練習当時のことで、何か覚えているものはないかな?」
ゆっくりと、頭部の包帯へと手を伸ばす。
どうしてこんな怪我を負ったのか。
いったいなにが起きたのか。
いまのおれに、そんな記憶は――
「――ありません。そのときのことは、なにも覚えていません」
先生の、ボールペンを走らせる音が止まった。
「だとすると……やはり、記憶障害の症状が出ているね」
「そう……ですか」
薄々感づいてはいたが、改めて先生からそう告げられても、やはり実感は湧いてこなかった。
「記憶喪失、正式には
おれは待ったをかけるように、手を上げた。
「――少し、いいですか?」
「かまいませんよ」
「練習当時の記憶はないですけど……ただ、そのあとのことなら、少しだけ覚えています」
先生がボールペンをノックする。
「その後?グラウンドでの出来事ではなくて?」
「はい、なぜか保健室での記憶だけが残っているんです」
「では早速、それを聞かせて貰えるかな……何があったんだい?」
――可哀想だね。
そんな言葉とともに、あのときの光景が蘇る。
保健室の扉を開けると、ベッドの上にいた女の子と目が合ったんだ。
ブツブツとなにか言っていたような気もするが、覚えている言葉はたった一つ。
……その一言を伏せたうえで、先生に報告した。
「こちらでまとめるね。経緯はともかく、屋代君は保健室に着いた。そこでは女生徒がベッドを使用していて、他には誰もいなかった。
……直後に倒れたので記憶も無い、と」
おれが頷くと、先生は眉間にシワを寄せて黙りこんだ。
「なにかその、問題でもありました?」
先生は曖昧に頷く。
そしてゆっくりと言葉を選ぶように、おれの入院経緯を語り始めた。
「まず『保健室で男子生徒が倒れている』という通報を元に、当病院への出動要請が下った。そこで救急隊員が現場に駆けつけると、養護教諭が屋代君の応急処置をしていた」
「あとから女の子が保健の先生を呼んでくれたんですね……とすると、問題ってなんでしょう?」
「まさにそこなんだ……救急車には養護教諭が同乗して下さったのだけれど、保健室に屋代君が来てからずっと二人きりで――他には誰もいなかったと言っていたんだよ」
「……………………え?」
おれが保健室で倒れていたのも、二人しかいなかったのも合っている。
でも、おれは保健室で女の子と出会ったはずなのに、
養護教諭はおれのほかに誰もいなかったと言っていて。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!僕の記憶が間違ってるってことですか!?」
――ガタン、と後ろで音がした。
いつの間にかおれが立ち上がって、そのせいで椅子が倒れたのだと……少し遅れて気がついた。
「……すみません。どうも気が動転してたみたいで……」
「ううん、屋代君は謝らなくていいんだ。記憶喪失で自分の身に何が起きたのか分からなくなって……それなのに唯一残った記憶すら否定されてしまったら、誰だってうろたえるよ」
「こちらこそ無理を言ってしまったみたいで……お気遣いありがとうございます」
先生には「落ち着いてからまた相談します」とだけ言った。
……おれのなかに、仕舞っておくことにした。
+++++
診察が終わると校長先生と監督がやってきて、両親を交えての協議がおこなわれた。
……といっても、かなり一方的なものだったが。
おれの口からは二点だけ。
『当人に記憶がない以上、〈事故〉の原因調査にはとても時間がかかると思います』
『ですが僕は、近く公式試合を控えた部員に、そのような負担をかけたくありません』
両親にはあらかじめ承諾を得ていたこともあり、入院費補償等の最低限の条件で、示談が成立した。
――そんな経緯を、面会時間ギリギリで戻ってきた姉貴に伝えたところ……
「イミわかんないんだけど。なんでアンタの方からゼンブ勝手に折れてるワケ?」
かなりご立腹の様子だった。
アイシャドウできれいに整えられた目元が、ピクピク震えている。
「さっきも言ったけどさ、六月に地方大会があるんだ……えっと、わかる?」
「知ってるわよ。甲子園の予選みたいなもんでしょ。で、それがナニ?」
「みんなが今年こそ甲子園に!って盛り上がってるんだ。なのにこんないざこざで、もし参加資格をはく奪なんてされたりなんてしたらさ……おれが、耐えられないんだ」
「だから記憶喪失にかこつけて全部ウヤムヤしてしまえって?」
おれは小さく頷いた。
「ふーん……ま、アンタが納得してんならそれでいいんじゃない――アンタが納得してんならね」
「……なんだよ、その言い方」
姉貴はどこか冷めたような反応を返した。
「自分で分かってんでしょ?」
+++++
再検査もクリアしたが、念のためもう一泊だけ入院することになった。
そんな短い間だけど何人かはお見舞いに来てくれて……そのなかには野球部員もいた。
知らないところで〈事故〉の話が大きくなってないか気がかりだったが、どうやら杞憂だったらしい。
おれの希望通り『部活動中の脳震盪で倒れた』という事実は伏せられているようだ。
「みんな心配してんだぜ。もうじき予選なのに救急車で運ばれてよ。なのに監督も他のヤツらもなにがあったか知らないって言うし……お前、なにかあったの?」
その頃には包帯を解いていたので、おれは先輩に「なにもなかったです」とだけ返した。
退院して三日ぶりに登校するなり、クラスメイトから代わる代わる温かい言葉をもらえた。
まだ二年になって一ヶ月しか経っていないのに、こんなに気遣ってもらえている。
嬉しくないはずがないのに……胸の奥がつかえているような、どこか息苦しい気分だった。
……あのときから、ずっとそうだ。
野球部に迷惑をかけたくないのは本心で、ああやって示談したことにも後悔していない。
ただ、ひとつだけ心残りがあった。
――可哀想だね。
ほかのなにもかもを忘れてしまったのに、あのときの感覚だけはいまも焼き付いていた。
……図星を突かれて、ゾッとしたんだ。
あのかき乱されるようなざわめきは、ひりつくような焦燥感は、決して嘘なんかじゃない。
おれのなかにいまも残るこの感情が、真実を告げられたのだと訴えている。
……だとしたら、わからないんだ。
あれが本当にただの〈事故〉だとしたら、どうしておれは――
――あんなに心をかき乱されたんだろうか?
確かめる方法は、わかっていた。
+++++
放課後、保健室の扉をノックする。
「松江先生はいますか?」
「――ふふっ。ちゃんといますよ」
そんな言葉とともに、養護教諭の松江先生はおれを出迎えてくれた。
白衣に赤い眼鏡が目印の、生徒に親身なお姉さん……というのが部内での評判だ。
わざわざ向こうから扉を開けてくれるあたり、その心遣いが見て取れる。
「では失礼します……」
廊下からは角度的に見えなかったが――部屋の奥に使用中のベッドを見つけた。
ちらりと一瞥しただけでは、遮光カーテンでなかの様子は伺えない。
「そんなにかしこまらなくていいですよ。職員室ではないのですから、好きに入って貰って構いません」
「いえ、そんなわけにはいかないので……松江先生が不在なら、勝手に入るのはダメかなと……」
「不在であれば、ここを施錠しています。特に最近は、とある紛失物の件がありますので――〈家庭科室の消えるマネキン〉、なんて噂を聞いたことはないかしら?」
「……初耳ですね」
「あら、そうなの?校内ではずっと、この話題でもちきりですよ」
「部活ばかりで、そういうのに疎くて……」
……いかんいかん、さっそく話が逸れてきている。
世間話をしに来たわけじゃないんだ。
「とにかく、まずですね――伝えたいことがあるんです!お時間をいただけませんか?」
「ええ、構いませんよ。ずっと立ち話も何ですから」
おれの着席を待っていたかのように、松江先生は丸椅子にゆったりと腰かける。
「……まあ、そうですか。あれから、そのような検査が……屋代さんも大変だったでしょう?」
落ち着いた態度で話を聞き、的確に相槌を返してくれる。
とても話しやすかった。
病院の先生と同じで、そういった職業特有の雰囲気でもあるのだろうか?
「これだけで済んだのは、松江先生のおかげです。これは粗品ですが……」
おれは学生鞄から、丁寧にラッピングされた菓子折りを取り出した。
「気持ちは分かりますが、物品の受け渡しは校則違反ですよ。それにこれ、凄く高いチョ……」
「せめてもの気持ちなんです!どうか受け取ってください!お願いします!」
「分かりました。そこまで言うのなら――指導部に代わって、私が没収しておきましょう」
松江先生はお茶目にほほ笑みながら受け取ってくれる。
ゆっくりと菓子折りを仕舞うと、椅子をくるりと反転させた。
変わらない笑みを浮かべながら、告げる。
「それで屋代さん――他に話があるのでしょう?
そちらが本題ではないのですか」
――まだ、なにも言ってないのに。
喉元までせり上がった感情を、必死に抑えつける。
おれが伝えた感謝の気持ちは本心で、そこに嘘偽りない。
だけど本当に話したいことは――松江先生が「いない」と言った、保健室の少女についてだ。
「……どうして……わかったんですか……」
やっとの思いで絞り出すと、松江先生は指を一本立てて答える
「まず第一に、最初から屋代さんは目を合わせようとしてくれませんでした。感謝の言葉を伝えるには不自然な態度です。
それに『お時間をいただけませんか?』とも仰っいました。覚えてませんか?」
『とにかく、まずですね――伝えたいことがあるんです!お時間をいただけませんか?』
「返礼だけが目的なら『少し』の時間で済みます。そしてわざわざ返礼に来るような方が、相手の時間を気にしない訳が無いでしょう?
これらは屋代さんの、後ろめたさの現れです。
ですから、他に何かがあるのではないかと」
合っている。
見事に合っている。
けれども――
「――それだけでは、当てずっぽうです」
自分でも驚くほど強気になっていた。
思わず口に手を当ててしまったが、松江先生は「気にしないで下さい」と言った。
「ええ、確かに屋代さんの言う通りです。これだけでは感情の憶測に過ぎません。
――なのでここからが論理に基づく推理です」
にこやかな笑みを崩すことなく、二つ目の指を突き立てる。
「屋代さんは話を切り出す際、『とにかく、まず』と言いました……いいですか?この二語によって、屋代さんは本心を漏らしてしまったのです」
まるで最初から暗記していたものを読み上げるように、松江先生は淡々と説明していった。
「『とにかく、まず』――この『まず』という単語にも『とにかく』の意味を当てはめる事は可能ですが、そうなると『とにかく、とにかく』と意味が重複してしまいます。
ですので消去法から、この文脈における『まず』は『
すると、こう読み解くことが出来るのです――『とにかく、はじめに』
始めが有るなら、続きが有るのも然りでしょう?」
この感覚だと思った。
真意を見透かされて、心を手玉に取られている。
倒れる直前の保健室で味わったものと、同じ体験だった。
……だけど、どうしてだろう?
なんだか物足りない気がした。
あのとき抱いた恐怖は、こんなものじゃない。
少女の言葉はもっと超常的で、格別に恐ろしかった。
――そう考えると、緊張がすっと引いていくのを感じた。
「それで、本題は何でしょうか?」
松江先生の目を見据えて、気負うことなくおれの思いを口にする。
「あの日の保健室について、どうしても聞きたいことがあるんです」
+++++
「そんな女生徒はいませんよ」
松江先生はそう言いながら――白衣のポケットからメモ書きを取り出すと、おれにそっと手渡した。
『疑問は沢山あると思います。ですがどうか何も聞かずに、外に出てからこれを読んで下さい』
おもわず声を出しかけたおれの行動を先読みしていたかのように、別のメモを提示してくる。
『お願いします。夜子ちゃんが別の保健室で過ごしている事は、他の生徒には秘密なのです』
松江先生は他の生徒――使用中のベッドを視線で示すと、懇願するように頭を下げた。
「…………わかりました。失礼しました」
『先に結論を述べます。屋代さんは確かにあの日、旧保健室でひとりの女生徒と出会いました』
……で、この女生徒というのが〈夜子さん〉らしい。
あっさり解決して拍子抜けしたというか、一周回って冷静になれたというか……。
そんなわけで、以後の文面も落ち着いて読めた。
『屋代さんの事情については、主治医の方と情報共有しております。女生徒の存在を伏せようとした件で屋代さんを惑わせてしまい、申し訳ありませんでした。
これだけでは不足でしょうが、後ほど改めてお話します。
今はただ、あの子の気が変わらない内に行動する事が先決です』
松江先生は夜子さんの秘密を守るために、あのような証言を行った。
そこにおれの記憶喪失というアクシデントが重なったせいで、話が変な方向に拗れてしまった、というのがコトの真相だろうか。
あらかじめ用意されていた文面なので、ついさっきのやり取りには触れられていない。
――おれが口走った二つの単語から、まだ話してもいない本題を言い当てられた件についてだ。
松江先生はおれの記憶喪失を最初から知っていたのだから、推理と言ったのはハッタリだろう。
けれどもあの瞬間、目の前の松江先生と――記憶のなかの少女が、間違いなく重なって見えた。
……たぶん、試されたんだ。
もしあの〈推理〉に怖気づいていたら、松江先生はこれを渡してくれなかったんじゃないか。
『直接会って話をしたいのでしたら、一人で向かって下さい。屋代さんならきっと大丈夫です』
メモの間には、小さな鍵が挟まっていた。
+++++
皆空高校には新旧二つの校舎が並び建っているが、普段から授業で使うのはもっぱら新校舎の方だ。
では旧校舎がどう使われているのかと問われたら……言葉に詰まってしまう。
それぐらいおれにとって縁のない場所で――だからこうして旧校舎に足を踏み入れるのも〈旧保健室〉のプレートを目にするのも初めてのはずだ。
――なのに、強烈な既視感がおれを襲った。
間違いない。
たった数日前に、おれはこの場所を訪れている。
ますます疑問が深まっていく。
ここに辿り着いた経緯もそうだが、なぜ夜子さんは今日も、あの日も――そしておそらくあの日よりもずっと前から、こんな寂れた場所にひとりでいるんだろう。
切れかけた電灯があちこちで瞬く、人気の途絶えた一階フロア。
薄っすらと埃の積もった渡り廊下には、旧保健室へと続く痕跡だけが残っていた。
松江先生が嘘をついてまで守ろうとした女生徒が、この扉の向こう側で、孤独にすごしている。
……寂しくないんだろうか?
ふと、そんなことを思いながら引き戸を開けると――
――大音量のロックミュージックに包まれた。
「…………………………………………」
視線の先にいる夜子さんは、あのときと同じようにベッドの柵にもたれて、かけ布団をお腹のあたりまで引っ張っている。
ただしお人形さんのように動かなかったセーラー服姿とは違い、指定ジャージを着こんだ夜子さんは不敵な笑みを浮かべながら、スマートフォンを目にも止まらぬ指捌きで操作していた。
小柄な体躯には少しそぐわないような、見ればわかるほどのモノが音楽に合わせて揺れ動く。
「――くっくっくっ!甘いなあ甘いぞキミィ!ボクが
ああ、キミは強敵だったとも!だからこそ特訓してきたのだよ!
今ここでキミを乗り越え、更なる高みにボクは行く!これで満点パーフェク――――ふぇ?」
また目が合った。
……なんか思ってたのと違う……
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