第82話 周回

タキオン船団で産まれ、タキオン船団で育ったシアリーは基本的に全員が上流階級の人間である。生まれた瞬間にどういう人間に育つか解析されている世界で、シアリーとしての誕生を望まれた人間は当然優秀な人間だけだ。


生まれた時点で優秀な遺伝子であることが確定しており、学習装置で知識を獲得し、恵まれた環境で育てられ、シアリーとしての戦闘技能を叩きこまれる。彼らは一般市民とは違い、特権を幾つも持つ代わりに、義務であるシャドウの討伐に務める。


シャドウの本拠地で戦えているタキオン船団のシアリーはシアリーの中でも全員がエリートだ。通常のシアリーであれば連続して2時間も戦闘すればくたびれて倒れてしまうが、本拠地で戦うシアリーは5時間6時間の連続戦闘が可能である。


……シアリーは、眠らずに連続して戦闘することが理論上可能ではある。しかし疲労感や眠気は感じる以上、無理をして連続戦闘を続ける者は少ない。戦闘時には命がかかっているからだ。そんな彼らの目の前で、狂気に染まった廃人達が跋扈した。


「ヘイト上昇エンドクラッシュエンドクラッシュエンドクラッシュヘイト上昇エンドクラッシュエンドクラッシュ……」

「ダブルクロスカットダブルクロスカットダブルクロスカット……」

「あの、マスター達は少し休憩をグラビティゼロ、した方が良いと提言しますグラビティゼロ」

「ご主人達マジヤバくね?」


一番シャドウが集まる地帯には、数百のシャドウの猛攻を単騎で集め、数十のシャドウを一瞬で葬る二刀流の剣士が。


「チャージ最大メテオライトファイアが連発出来るの楽で良いわ。」

「それずるい。こっちラスキルが全然取れないんだけど」

「ふわわは突っ立ってるだけでそのスコア頭おかしいわよ……」


その隣では、巨大な隕石が降り続け、複数の鳥がエネルギー弾を連射している。幼女同盟の面子で、この4人はイベント開始時から3日経った現時点まで個人ランキングトップ10をキープし続けている猛者達だ。


元々、シャドウの本拠地には数千億のシャドウが存在していると推測されていた。日に日に増えて行くシャドウに、タキオン船団のシアリー達は絶望していた。しかしイベントの開始と共に、シャドウの数は減少し始めた。タキオン船団の予想を超え、文字通り24時間働く地球組のシアリーが、至るところで戦闘を続けているからだ。


タキオン船団のシアリーには、何が彼らを動かしているのか理解できない。確かにイベントで上位に入れば色んな報酬を得ることが出来る。だがそれでも、『出来る』と『実行する』の間には大きな隔たりがある。


そして4日目に入った段階で、個人ランキングでトップを走るのはふおにの森のライトだった。


個人ランキング


1位 サーバー1 ライト 16,485,600pt

2位 サーバー1 ユリクリウス 15,786,200pt

3位 サーバー1 クロワッサン 12,699,600pt

4位 サーバー1 ゼル 12,566,900pt

5位 サーバー1 ふわわ 10,891,100pt

6位 サーバー1 めう 10,885,600pt

7位 サーバー7 モルモット 10,769,800pt

8位 サーバー21 バルバロッサ 10,750,500pt

9位 サーバー3 無脳 10,712,400pt

10位 サーバー8 十六夜白夜 10,700,000pt


シャドウ本拠地のシャドウは一番弱い種類のシャドウでも1体1000ポイントを持つ。同じシャドウに複数のシアリーが攻撃していた場合は割合で計算するため、7割のダメージを与えていれば700ポイントが入る。


「くそ、全然ライトさんとの差が縮まらないし、ユリクリウスは片方ロケランにした方が効率良いな。範囲攻撃ないとたぶん無理だ。あと自分は攻撃力減らす」

「それするとクロワッサンがゼルさんに抜かれて4位落ちるけど良いのか?あと俺がランチャーを使ったら範囲攻撃に巻き込まれるが……」

「0ダメだから平気だ。ユリクリウスがライトに勝てるならそっちの方が良い」


火力ではライトを大きく上回るユリクリウスが同時間戦闘を続けてライトに勝てていない理由は、魔法攻撃職と比較した時に近接攻撃職は範囲攻撃に乏しいからだった。その上でライトはチームメンバー11人のサポートを受けているのに対し、ユリクリウスはクロワッサンとサポートロイド2人の計3人のサポートと数が少ない。


ライトとの差が縮まらないどころか、広がる一方なのを見てクロワッサンはユリクリウスに対し、ロケットランチャーの使用を提案する。その提案を受けたユリクリウスはスキル二刀流のスロットを持つ剣を装備し、もう一つの武器枠に全クラスで装備が可能なロケットランチャーを装備する。


この瞬間、二刀流での攻撃力上昇効果は無効になった。剣とロケットランチャーでは攻撃力の上昇値が被らず攻撃力が二重に上がらない。しかしながら、スロットスキルである連続攻撃でのダメージアップや1回の攻撃が2回になるクラススキルは適用されたままだ。


元々、過剰な火力で敵に余分なダメージを与えていたためにポイントの稼ぎ効率が悪かったユリクリウスは、この狩り方法の変更によりポイントの上昇速度が加速する。その結果、シャドウの本拠地のタキオン船団占領地域がどんどん広がりを見せることに、タキオン船団のシアリー達は困惑することしか出来なかった。

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