第24話 初心者

唐突に入って来た人の名前はケルビンさん。うん……どこかで見たことはある名前だ。あ、ちょっと待って、何か思い出せそうな気がする。確かフレンド一覧に居た。


「お久しぶりです信玄先輩!128レべとか意味不明なレベルになってるの何ですかそれ!?」

「……ああ、水野さんか」

「ちょっ、リアルネームは駄目じゃないですか!?」


そして入って来た人から先輩と言われた瞬間、全てを察する。高校時代の部活の後輩の水野さんだ。まあ部活と言っても閑古鳥が鳴いていたボードゲーム部の部室で、ユリクリウスと2人FUO2をやっていただけの部活なんだけど。


そのボドゲ部で自分達が3年の時に入部した2つ下の学年の後輩が水野さんだ。人に妙なあだ名を付けるのが好きな奴で、自分は苗字が武田だから信玄先輩と呼ばれていた。対になるユリクリウスは苗字が上野だから謙信先輩だったけど『上』しか合ってねーよという。下の名前に謙信要素は一切ない。


で、この子も少しFUO2に興味を持ったからちょっと教えたりはしたんだよな。まあ3日で辞めたけど。ついでにすぐ幽霊部員なったけど、それにしては44レべはレベル高くないか……?ゲーム世界でも、1日8時間プレイで最低1週間はかかるレベル帯だぞ。もしかしてこの世界になってから鍛えたのか……?


「信玄先輩ってふおにの森所属じゃないんですか?128レべなら歓迎されると思うんですけど」

「リアルネームがダメならリアルネームに纏わるあだ名もダメだろ。クロワッサンと呼べ。……この世界でリアルネーム考慮する必要があるのかは謎だけど」

「うぐっ、そうですね……。

っと、クロワッサン先輩のチーム名は……幼女同盟?21人しかいないなら辞めてふおにの森に来ましょうよ」

「言っとくけどたぶんふおにの森と幼女同盟がチーム対抗戦で戦ったらうちが勝つぞ」

「え?

いやいや、御冗談を。ふおにの森のライトさんって人、130レべらしいですよ?上位の人みんな凄いレベルだし……1500人以上いる中のトップ12人が21人しかいないようなチームに負けるわけないじゃないですか」

「130なら今日中に抜くぞ。まだチケット消費してなかったからな。

……養殖は自分も良くないと思ってるからまあ、一回だけ一緒に行ってやるよ」


[コッペパン:誰ですかこの不愉快な女]

[クロワッサン:リアルで知り合いだった子。悪気はないから許してあげて。外見はただの弱小チームだし]


個チャでコッペパンからチャットが飛んでくる辺り、コッペパンにも人格が芽生えたような印象を受ける。これがただのロボットとか信じられないんですけど。ついでにめっちゃ庇って来るの可愛すぎん?


トラブルは起きたけど、サポートロイドとの周回が終わった頃には自身のレベルは132に、コロネは68レべまで上がっていた。超がつく養殖である。ちなみに44レべだったケルビンさんは1回のクエストクリアで46レべになっていたからギリ許容範囲内の養殖だろう。どうせその辺のレベル帯はレベル上げに凄く時間かかるだろうし、PSが追い付かなくなることはないはず。


で、クエスト周回が終わってロビーに戻るとケルビンさんがロビーで自分を待っていた。どうやらユリクリウスがどこにいるか知りたいらしいが、ユリクリウスは……。


[ユリクリウス:クロワッサン様。『ゆるふわロングS:アホ毛付き』の在庫はありますでしょうか]

[クロワッサン:リサイクルチケット20枚]

[ユリクリウス:はー!?……いや過去の取引価格だと適性価格か。というかショップの在庫0だからむしろ超好条件……!ありがとうございます……!]


ついさっきから2体目のサポートロイドのキャラクリを始めたから、今からだとたぶん数時間は会えないかもしれない。下手すりゃ数日は平気で引き籠るぞあいつ。サタンちゃんのキャラクリも微調整に余念がない奴だったし。


「ユリクリウスは今取り込み中だし、下手すりゃ数日は連絡取れないな」

「えー、嘘ついてはぐらかそうとしてません?

と、それよりクロワッサン先輩はふおにの森への移籍考えてくれましたか?私、結構戦いの才能あるみたいで「お兄さん」さんから強化対象メンバーに選ばれたんですよ!将来的には一緒のチームで戦いましょうよ」

「あー、「お兄さん」が選抜してるのか。……わりとポンコツだよあの人?」

「ふおにの森のサブマスター様になんてことを!?」


そしてふおにの森への勧誘が止まらないケルビンさん。勘弁してくれ。これ幼女同盟がチーム対抗戦で勝たないとずっと勧誘してくる感じ?いやその前に鯖対抗戦があるわ。その時の談合具合で幼女同盟の影響力が強いことはゲームやってなかった層にも伝わるかな。


……大きなところは、一応100人MAXで埋まっているのが基本だから、一見すると弱小チームではある。あまりプレイしていなかった人の方が多い世界になったからこその弊害か。気にしないようにはするけど、やっぱりちょっと引っかかるな。

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