第31話 ボス戦用ステージ

 開いた通路をしばらく歩くと、遺跡の最奥部と思われる広い空間に出た。

 天井は吹き抜けになっており、日の光が差し込んでいた。


「あれ、先輩じゃないッスか」


 そこにいたのは何故かボロボロになったトリスだった。


「おお、皇女殿下もいらっしゃいますね。良かったぁ、見つかったんですね」

「ご迷惑をおかけしました」


 心配そうな声を出すトリスに、ルミナは申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえいえ、無事で何よりです」

「それよりトリス。随分とボロボロだが、何があった?」

「いやぁ、鼠が足りなくて罠を自力で突破したらこんなことになっちゃったんスよ。たぶんこの部屋いくつものルートから来れるみたいッスね」

「お前、ホントよく生きてたな」


 何だかんだで悪運の強いこの後輩は殺したって死にやしない。

 トリスは見た目に寄らず実力だけは確かなのである。


「同じ部隊にいた頃、先輩にさんざん扱かれたッスからね!」


 明るく振る舞うトリスだったが、その姿は土埃と切り傷で痛々しい。

 自分が軽率に地下に入ったせいでトリスがボロボロになったと理解したのか、ルミナはバツが悪そうにしていた。


「直感を頼りにここまで来たッスけど、この空間はなんなんスかね」

「闘技場っぽさはあるな」


 円形に広がる床はさながらコロッセオのようだ。

 ゲームでいえばボス部屋だろうな。そんな感想をソルドは抱いた。


「ハッ! 忘れない内にメモッス!」


 いそいそと懐から備忘録とペンを取り出してトリスは記録をつける。こういうところは抜け目ない。


「何があるかわからない。俺の傍を離れるなよ、ルミ……ナ?」


 言いかけて、ソルドは隣にいるはずの人物がいないことに気づく。


「また石像ですね。これも獅子でしょうか?」


 ルミナは興味深そうに中央に設置された石像に手を触れようとしていた。


「バカ、触るな!」

「え?」


 ソルドが慌てて駆け寄るも間に合わず、ルミナは獅子の形をした台座に触れてしまう。

 直後、獅子の瞳が怪しく光り、部屋の中央に魔法陣のようなものが怪しく浮かび上がった。

 どう見てもやらかした自分の主にソルドは冷たい視線を送る。


「おい、ルミナ」

「ごめんなさい」


 ルミナの頬には冷や汗が流れており、明らかに焦っていた。


「なんかまずいッスよ。鳥肌が止まらないッス」


 先程までは明るい表情を浮かべていたトリスですら表情を強張らせている。


「ヂュラァ……」


 その瞬間、ソルドは全身が粟立つような感覚を覚えた。


「避けろ!」


 咄嗟にルミナを抱えてその場から飛びのくと、直前までいた場所に何かが落ちてきた。


「なんスかこいつ!?」


 驚きながらもトリスは咄嗟に弓を構えて臨戦態勢に入る。

 そこにいたのは、巨大な鼠だった。

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