第29話 ○○しないと出られない部屋
二人が落ちた場所は遺跡の一室だった。
「痛っ……怪我はないか?」
「はい、大丈夫で――っ!?」
ルミナは抱きしめられていると気づいた瞬間、ソルドから飛び退いた。
「ああ、すまん。咄嗟だったんだ」
「いえ、いいですけど……」
ルミナは松明がどこかへいったことで、赤くなった顔を見られないで済むと安堵していた。
「それより、問題はこの部屋だな」
落ちた際に明かりがなくなってしまったため、ソルドは暗い部屋の中で感覚を頼りに荷物を漁る。
「よし、火打ち石と油漬け鰯缶、あと救急用の布もあるな」
ソルドは非常食として持ってきていた缶詰に穴を開け、そこに細く千切って縄のようにまとめた綿の布を差し込む。
「ルミナ、危ないから離れてろ」
鞘から剣を抜くと、ソルドは火打ち石を剣で打ち付ける。飛び散った火花はうまく布へと飛び散り、火が付いた。
「おっ、一発で着いた」
「はえー、すごいですね」
手際よく火を起こしたソルドにルミナは目を丸くしていた。
「明るさは松明には勝てないが、ないよりマシだ。ひとまずこれで出口を探すぞ」
ソルドは明かりをいくつか作ると部屋を見渡してみる。
天井には大穴が開いており、自分達があそこから落ちてきたのだとわかる。
その他には壁に壁画や古代文字が刻まれ、中央部分には台座があり、その四つ角には火を灯すための燭台があった。
燭台へと火を灯すと、明かりが増えたことにより、部屋全体がぼんやりと照らされる。
「出入口らしきものは見当たりませんね……」
「天井の穴から戻るのも無理そうだ」
二人して天井を見上げてみるが、高すぎてとてもじゃないが登れそうにない。
いくらソルドの身体能力が高いと言っても、ルミナを抱えながら壁面をよじ登れるほど人間はやめていなかった。
「壁画や祭壇らしき台座があるから罠に嵌めた者を閉じ込める空間ではなさそうだな」
「わたくしが踏んでしまった装置は罠ではなく、隠し扉のスイッチだったというわけですね」
「推測だけどな」
ここは何かの儀式を行うための部屋に見える。それならば、脱出のためのヒントも残されているかもしれない。
二人は壁に描かれた絵を調べたり、地面に刻まれた模様をなぞったりして手がかりを探す。
しばらく室内を調べたが、脱出できそうなルートは見つからなかった。
「気になるのはいろんな動物が描かれた壁画だ。隠し扉のときといい、これが鍵と見ていいだろ」
「また動物ですか……」
ルミナはうんざりとした表情を浮かべ、大きな溜め息をつく。そんなルミナとは対照的に、ソルドは壁画を見て冷静に分析をする。
壁画には獅子、鼠、熊、烏の四体が二体ずつ描かれており、その間には石の剣が交差して飾ってある。獅子の片方に鬣があることからこの壁画の動物は番として描かれていると見ていい。
そして、動物の番の壁画の下にはそれぞれの子供らしき石像が聳えたっていた。
どうせこれも暗号解いたら隠し扉が開くパターンだろう。
そう判断したソルドは思考を回転させ始める。
「あ、あの、ソルド?」
そんな彼の思考を遮ったのは、躊躇いがちに口を開いたルミナだった。
「……これはもしかすると、性行為をしないと出られない部屋なのかもしれません」
「そんなあってほしい部屋があってたまるか」
ルミナの突拍子のない発想にソルドは突っ込みを入れる。
「動物の番が描かれていて、子供を模した石像があるってことは〝そういうこと〟だと思うでしょう!?」
「淑女がそんなことを言うものではありませんよ、むっつり皇女殿下」
「誰がむっつり皇女ですか!」
ルミナは憤慨するが、ソルドの言っていることは最もだった。
「本当に一発ヤるとして、どうやって遺跡がそれを判別するんだよ」
「ヤッ……!?」
「ほら、思い付きで後先考えずにしゃべると恥かくからやめたほうがいい」
ソルドの言葉にルミナの顔が赤く染まるが、彼は気にせず壁画の謎を解き始める。
「ソルド、もしかして結構、その……そういった経験があるのですか?」
「その話、まだ続けるのかよ」
「気になるじゃないですか!」
ソルドが呆れたように言うと、ルミナはムキになって言い返す。面倒になったソルドは渋々ルミナの問いに答えることにした。
「俺も騎士だからな。特定の相手はいないが、そういうことには詳しいぞ」
ソルドは見栄を張った。
本当はこの男、前世も含めて恋人など一度もできたことはないのである。
「騎士は皆そうなのですか!?」
「ああ、騎士なんてそんなもんだ」
風評被害である。
ソルドは近衛騎士団の元同僚達に頭を下げるべきだろう。
「実際、おっちゃんが冤罪で投獄されたときも違法娼館の件が絡んでただろ? きっちりした仕事に付いている人間ほど、そういう店には詳しいもんなんだよ」
「ということは、レグルス大公も?」
「おっちゃんなんて奥さんとうまくいってないから尚のこと娼館通いだぞ」
「えぇ……」
とんでもない大嘘である。
ソルドはレグルス大公に土下座をするべきだろう。
「確か店の名前は――」
「やめましょう。これ以上はレグルス大公の尊厳にかけて聞いてはいけない気がします……」
ソルドの言葉を慌てて遮ると、ルミナは疲れたように肩を落とした。
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