第27話 マジで打ち首案件
地下への隠し扉を見つけたことで、ルミナのテンションは上がりっぱなしであった。初めて外に出たルミナにとって、古代遺跡の隠し通路を見つけるなんてものは飢えた猛獣に肥えた豚を与えるようなものである。
「では、さっそく調査に向かいましょう!」
「待てって」
「ぐえっ」
興奮冷めやらぬ様子のまま地下に突撃しようとしたルミナの首根っこを掴む。
そのまま引き摺られる形となったルミナは首が締まり、蛙が潰れたような声を上げる。とてもじゃないが、巨大な帝国の皇女の出していい声ではない。
「打ち首ィ!」
「はいはい、打ち首打ち首。いきなり掴んで悪かったって」
ぷんすか怒るルミナを雑に宥めると、言い聞かせるように告げる。
「ルミナは治める領地の仕事としてここにいる。まずは調査団員に報告するのが筋ってもんだろ」
「それは、そうですけど……」
ソルドの指摘にルミナは理解しつつも不満げな表情を浮かべる。下水道を平気な顔で通るわんぱく皇女はまだ見ぬ冒険に飢えていた。
「それに未開の地には危険が付きもんだ。一旦、準備を整えた方がいい」
「ソルドがいれば大丈夫じゃないんですか?」
「人を全自動迎撃装置みたいに扱うな。俺だって人間だぞ」
「はいはい、人間人間」
さっきのお返しばかりにソルドを雑にあしらうと、ルミナは思案顔で告げた。
「しかし、そうですね。ソルドの言うことも最もです。少々舞い上がってしまいました」
「わかってもらえたようで何よりだ」
「では、騎士ソルド・ガラツに命じます。調査団員と兵士を数名呼んできなさい」
「御意」
ソルドは恭しく頭を下げるが、すぐに首を傾げる。ルミナが何だかいつも以上に素直だなと思ったのだ。
まさか、監視の目がない内に一人で地下に行く気なのではないか。
「まさかな……」
ルミナだってバカじゃない。いくら何でもそこまで考え無しではないだろう。
ソルドは頭を振って過ぎった不安をかき消す。
しかし、その判断をソルドは後悔することになる。
「いやぁ、まさか地下への隠し通路があるとは驚きでした!」
それから程なくして、ソルドは調査団員と兵士が数人集められた。
「さすがは皇女殿下。まさか遺跡の内容を解読してしまうなんて……」
「ええ、私も驚きました。聡明な皇女殿下にお仕えできて騎士冥利に尽きますよ」
さりげなくソルドはルミナへと隠し通路発見の手柄を譲っていた。
これ以上、下手に自分だけが注目されて厄介事に巻き込まれるより、ルミナにも目立ってもらおうという魂胆である。
「ああ、やっぱり隠し通路あったんスね」
「「えっ」」
何てことのないように告げるトリスにその場にいた全員が絶句する。
「お前、気づいてたのか?」
「はい、だって地下から隙間風が吹いてたじゃないスか。獣のような鳴き声も地下から吹いた風で鳴ってたんスよね」
トリスは風の流れに敏感であり、獣の鳴き声の正体も理解していた。
ソルドも例の獣の鳴き声が地下空間から存在していることに思い至ったが、トリスはとっくにその結論に至っていたのである。
「お前、ホント地頭はいいよな……」
「まあねッス!」
「で、何で調査団員に報告しなかったんだ?」
ソルドが尋ねると、トリスはハッとした表情を浮かべる。
「そうだ、思い出したッス! 隠し通路があるかもしれないって報告しようと思ってたんスよ!」
「お前、ホント鳥頭だよな……」
ソルドは呆れた様子で額に手を当てる。碌に報連相ができない後輩との一般兵団での日々が脳裏に蘇ってきたのだ。
それから雑談交じりに歩みを進めて遺跡に到着すると、そこにルミナの姿はなかった。
地下への隠し通路と消えた皇女。この光景を見れば何が起きたかくらいバカでもわかる。
「マジで打ち首案件じゃん! 何やってんだあのバカ皇女!」
ソルドは嫌な予感が的中してしまったことに思わず天を仰いだ。
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