第26話 ゲーム特有のギミック
レグルス大公の気苦労も知らず、ソルドとルミナは遺跡の調査を進めていた。
「チェスってのはあながち間違いじゃないかもな」
「というと?」
「盤上の駒を動かすって考え方自体は合ってるってことだよ」
チェスほど難しくはないだろうけどな、と前置きするとソルドは解説を始める。
「壁に刻まれた文字はそれぞれ石像を表しているんだ」
ソルドは等間隔に並んだ石像を指差して告げる。
「文章の前には数字が振ってあっただろう?」
「確かにありましたね……あっ、石像の数と同じです!」
動物を模した石像の数と壁に刻まれた文章の数は一いたしている。これを偶然とは考えづらい。
「あとはどの動物がどの文章に対応しているかだが……これはさすがにわかるだろ」
「勇敢なる王は獅子、知略に富んだ軍師は狼、闇に紛れし間者は蝙蝠、食わせ物の呪術師は狐、ですかね」
ルミナは石像の動物から何となく文章のイメージが近い動物を当て嵌めていく。
「消去法で獰猛な戦士は虎になりますけど、どうにもしっくりきませんね」
「檻は虎の縞模様を表しているとしたら?」
「ああ! 縞模様のある獰猛な戦士と言われれば虎っぽいです!」
ルミナはポンッと手を叩く。
ソルドはその反応に満足げに微笑むと、話を続ける。
「で、だ。古代文字でそれぞれの動物の名前の綴りを書くとこうなる」
ソルドは荷物の中にあった紙を取り出し、そこにペンで古代文字の単語を書き連ねてルミナへ手渡す。
「ソルドって古代文字の読み書きもできるのですか!?」
「読めるって言うか……」
だって、古代文字ってアルファベットをそれっぽく崩して作ったものだし。
この辺りはゲームが舞台となっている影響だろうとソルドは考えていた。ちなみに、帝国で使われている共通言語も日本語だったりする。
「とにかく、壁に刻まれた文章ではわざとらしくそれぞれが戦場においてどの位置にいるかを示している。それが鍵なんだ」
そして、ソルドは壁に刻まれた文章をもう一度読み返す。
「勇敢なる王は兵を統べて前線を駆ける。知略に富んだ軍師は後方で戦況を窺う。闇に紛れし間者は王の傍で控える。檻から解き放たれた獰猛な戦士は後方から戦場へと突入する。戦場において突破口を開くのは、突如として前線に現れた食わせ物の呪術師だ。これは戦場での配置を示している」
ソルドは壁に刻まれた文章を反芻しながら、そう断言する。
「戦場において前にいるのが、獅子、蝙蝠、狐。後ろにいるのが、狼、虎だ」
「それがどうしたというのですか」
ルミナはまだ納得していないのか首を傾げた。
「ルミナ、お前は遺跡の床をチェス盤に例えたよな?」
「はっ! もしかして、この文章は石像の動かし方を表しているのではないですか」
「そんなとこだろうな」
ソルドは腕を組みながら、石像周辺の床を見つめる。
古代遺跡のためか、一部欠けたりしている石畳の床には擦れたような跡もある。かつてこの遺跡を訪れた者が動かした跡と見ていいだろう。
「あれ、そうなると綴りの意味は? それに、それを解いたところで何が起きるのかもわからりませんね……」
「文章内での前方、後方はあくまでも綴りの中でどこを抜き出すかを示してるんだよ」
絶対これ原作のゲームにもあったギミックだろ。
ソルドはこの世界にはいないゲーム制作者に呆れたようにため息をついた。
「獅子の前はL、狼の後ろはF、蝙蝠の前はB、虎の後ろはR、狐の前はFだ。この古代文字が何を示してるかわかるか?」
「L、F、B、R……もしかして左右前後ですか!?」
「よく真っ先にそれ思い浮かんだな」
「古代文字だけでなく、古代の歴史についても学びましたからね! 左右前後、Left、Right、Front、Backを古代文字の頭文字で表すことくらい知ってますよ」
左右をLRと略すのは言ってみれば、前世で暮らしているからこその感覚だとソルドは思っていた。特にゲームではボタンがLRと表記されるものも多い。
この遺跡の暗号はゲームの舞台だからこそ解けるものだとソルドが思うのも無理はなかった。
「それでそれで! 石像を左右前後に動かしたら何が起きるんですか!?」
もう待てないとばかりにルミナは目を輝かせてソルドへと詰め寄る。
「気が早いっての。まずは指示通り動かさないと、な!」
ソルドは早速解読した通りに石像を動かしていく。獅子は左に、狼は前に、蝙蝠は後ろに、虎は右に。
そして、最後に狐の石像を前に動かすと告げる。
「戦場において突破口を開くのは、突如として前線に現れた食わせ物の呪術師――つまり、狐の石像を動かしたこの床が〝突破口〟ってわけだ」
ソルドの言葉と同時に、ゴゴゴゴッと大きな音を立てて狐の石像があった場所に地下へと続く階段が現れたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます