佐々木君には関わらない

@yutuki2022

第1話

 終わったと言うなら、帰っていいということだ。私はかばんを引っつかんで、教室を後にした。


 廊下に出た途端にすべての人間敵チームって立場になる。なんだってみんなして、私の進む道を邪魔するんだろう、やめて欲しいなんて言ったところで、私が変な人なだけ。


 小野里選手三百人抜きです(言い過ぎ)って勢いで、ゴール(校門)目指して突っ走る。校舎から出れば勝利は近い。


「はいはい、ストーップ。こっちの都合で悪いけど、ちょっと止まってて下さーい」


 サッカーならばまさしくキーパーのその位置で、私はそんな声に止められた。声だけじゃなくしっかりと腕までがっちり掴まれているとこが、絶対逃がさないぞと強い決意の現れ過ぎって言うか、中尾。


 この男がこんなことをするのだから、当然誰のためかと問えば答えは簡単に拾い上げられる。私は振り向く前に声にした。


「なに? 芽久」


 のたのたと近付いてくるのが、中尾祐にとっての最上級少女であるところの向坂芽久嬢である。


 のほのほと笑った口元等が大変に可愛らしく、私はクラスメイトを三年やってる現在に及んでも慣れないままに、雰囲気に飲まれてよわよわな立場と化すのであった。


 いつまで続くのだろう、この形勢はもしかして生涯決定付けられてる? まさか中尾と一緒ってこと?


「あのねあのね、静佳ちゃんにお客様で、放課後また来るからって言ってたの」


 あぁ、かわいい。って、私、マズイだろう。


「客って。誰?」


「三組の佐々木君」


「それ誰?」


「佐々木君」


「三組だな」


 中尾のこと見たのは期待を込めてだったのに、そんなことしか出て来ない。それじゃただの繰り返しだろう、珍しいことに役立たずな。


 佐々木? 知らないと思われし名前だ。佐々木――小次郎――じゃないだろう。そんなんに来られてどうする。


「ま、いいや。用事なんだったらまた来るでしょ。急いでるんだ、私」


「修ちゃんのところ? 今大変なの?」


「大変じゃない時はあんまりないんだけどね。そん中でも」


「とっておきって感じ?」


「……まぁ、それでもいいし」


 少しニュアンスが違っても、別にささやかなことでしょう。何も修平の現在を事細かに芽久にわかってもらう必要はない。


 言い分を尋ねてみたら、修平の方は芽久の同情を欲しがるだろうけど、私の口から出る説明ではそれは確実に手の届かないものになる。無駄なことはしないことだ。


「西野の世話なんか、いいかげんにしておけよ」


 その声に三人して目を上に向けた。校門の右側に大きく育った桜の木があることなんて、花が散った後は意識して見たことなかった気がする。


 がさがさと葉を揺らし、木登りに対して適性の薄そうな不器用な動きで、足から順に人間が姿を現した。


「なにしてんですか、先生」


 代表質問は中尾から。着地した一色先生は、右手に植木屋さんの持つ大きな鋏を握っていた。


 気が付いていなかったけど、それで足元を見てみれば、それなりの量の残骸が落ちているのだった。桜の外観は、……変わったようには見えないような。


「刈り込み。創設者の像にボール当てて遊ぶ不届き者を校長室から確認できるようにだそうだ」


 へぇ、暇人。


「そんなことするのがいるんだ」


「いるんだよ。確かに当てたくなる見事なたぬき腹だけど敬意ははらわにゃ化けて出られる。ポスターで呼びかけとかしてんだけど、気付いてない生徒が居ると。なぁ、小野里」


「うん。知らない」


 知ってるふりでもすりゃ良かったんだ、説明してくれた中尾にはものすごい失望のゼスチャーを送られた。すんませんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る