第5話 ……の話

 わたし、軽井沢かるいざわかおるはこの世界に戻ってきた。

 目を開けると、見慣れない白い天井。それに懐かしく思える電子音。


 病院だ!?


 崖下に落ちた車から、わたし達は救助され、夏休み中、昏睡状態のままベッドに寝かされていたそうだ。

 あの異世界での10数年は、現実では1ヶ月少しの出来事だったようだ。

 そして、あちらの世界の死が、現実に戻る方法だったようだ。しかし、あちらの世界で殺された松本まつもと先輩と塩尻しおじりさんは、昏睡状態から回復することなく、数週間前に亡くなったそうだ。


 生き残ったのは、わたしと大妻おおつまあずささんのみ。


 でも、彼女は搬送の都合で、同じ病院に運ばれなかった。


 結局、入院中もリハビリ中も、あの異世界のことは思い出していた。

 それにわたしの持ち物の中に、勇者様からもらった天使の紋章があったからだ。


 愛した人との誓いの紋章が――。


 そして、退院し学校に復帰すると、大妻さんも学校にいることを知った。


 謝罪もしたい。それよりも、あの世界のことを覚えているか……共通の友達がほしかった。

 でも、何度もわたしは会おうとしていたのに、彼女は避けるように行動している。


 それが今日、ようやく彼女を捕まえる事ができた。


 あの異世界のことを謝りたく……そう思っていた。


 あの紋章を何故?


 大妻がショートヘアをかき上げたときに、耳元で光ったものに目を奪われてしまった。


 わたしの愛した人は、『愛の証し』と渡してくれたものを……


「何故……貴女が――」




〈了〉

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Pluck~異世界帰還者のその後~ 大月クマ @smurakam1978

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