第4話 アズサの話

 あたし、大妻おおつまあずさは、軽井沢かるいざわかおるにあわせる顔がなかった。


 すべての原因は、あたしだ。

 何年もあの異世界で暮らし、勇者と共闘していくうちに、目が離せなくなっていた。

 あたしの心の中で、彼の存在が、日に日に大きくなっていく事を感じていた。


 そして、カオリと勇者が結婚したときは、喜んだのは……うわべだけだ。


 ――あの横にいるのは、あたしではないのか?


 そんなことが頭に浮かんだ自分が、怖くなった。

 彼女の笑顔を見てると、憎悪が浮かんできそうだったから。

 いつか彼女を殺し、彼の隣を奪いたい……そんなことを思い始めた。


 ――だから、彼の元を去った。


 誰にも告げずひとり旅をしていた。

 魔王を倒した勇者パーティーのひとりだったことも隠して――


 それなのに、どこからともなく彼……勇者が現れた。あの時、助けてくれたように。


 彼が言うには、討伐依頼で遠征中だという。その合間にあたしを探していたのだ。


 その後も何度となく、あたしの前に現れるようになった。


 正直言って、嬉しかった……だけど、彼にはカオリという奥さんもいる。


 ――それは不倫ではないだろうか?


 彼とベッドを共にし、安宿の天井のシミを数えながら、ふと思った事もあった。

 でも、お腹が大きくなった頃には――


 ――ゾクゾクする。


 秘密の関係が、少し楽しくなってきた。


 しかし、隠しきれないぐらいにお腹が大きくなると、あたしはこの異世界の現実を突きつけられることとなる。

 この世界では未婚での出産は、宗教上、非道く厳しいということを――


 魔王を倒した勇者であったとしても、妻のいる男性の子供だ。

 知れば、あたしは迫害を受けるであろう。

 産んだとしても、お腹の子がちゃんと成長できるか、心配になった。


 あたしはいつになく、彼に弱音を吐きすがった。


 彼は――


「結婚しよう。カオリとは別れる」


 耳飾りにした紋章をあたしにくれた。

 そして、カオリの元に向かった……のが、あたしの見た最後だ。


 それは、秋の終わりの頃。

 その年の冬。あたしは身重のまま風邪をこじらせて死んでしまった。

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