第3話 カオリの話
わたし、
あの世界のことは今では絵空事でしかないが、体験したことには変わらなかった。
そして、わたしは知っていた。
彼女が勇者様に好意を抱いていたことを――
それをわたしは奪ってしまった。
もうあの世界に行く方法は解らないけれど、あの世界での出来事を謝りたかった。
3人になったとはいえ、わたし達のパーティーは数年という長い時間をかけて、魔王の元にたどり着いた。
そして、魔王と戦い勝利した。
最初の話では、『魔王を倒せば帰れる』はずであった……が、それは裏切られた。
何も起こらず、帰る手段は何もなかった。
結局は、わたしとアズサは異世界で生活することとなった。
何年も何年も、その世界の住人として生活していた。
勇者様は……魔王を倒した功績で、どこかの王女様との結婚が決まったそう――
だけど、わたしを選んでくれた。
今、わたしが首に付けている紋章は愛情の証し――
嬉しかったのは確か……しかし、アズサのことが気になった。
わたしのことを思ってか、気が付けば、彼女はどこかに消えてしまった。
その後、子供も産まれたのだけれど、勇者様はその名声からか家を空けることが多くなった。それは「どこかで魔物が暴れている」などの討伐依頼だ。
「少し落ちついたら?」
そうわたしはよく勇者様に声をかけたが、返事はいつも、
「困っている人がいるから――」
そう言って、わたしと赤ちゃんを置いて、何ヶ月も家を留守にしていた。
そんなある冬のこと。
わたしは風邪をこじらせて寝込んでしまった。
現代みたいに風邪薬なんてない。治療魔法なんて病気には気休め――
こうしてわたしはあの世界で死んだ。
後悔があるとすれば、もう一度、勇者様に会いたかったこと。
そして、アズサに謝りたかった。
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