第2話 大妻の話

 あたし、大妻おおつまあずさはずっと彼女、軽井沢かるいざわかおるを避けてきた。

 もう3月も終わりだ。あれからもう半年近く経つ――。


 一夏の冒険……そういってしまえば簡単かもしれない。


 あの日、あたし達は異世界に飛ばされた。


 松本まつもと先輩の不慣れな運転の所為で、崖から落ちたはずだった。しかし、気が付けば、異世界に飛ばされていた。

 その異世界では、魔王が伝承通りに生まれ、世界を征服しようとしていた。

 同じころ、魔王を倒す伝承の勇者が、誕生していたそうだ。だけど、伝承によれば、異世界からの仲間を引き連れなければならないという。


 それがあたし達だった。


 理不尽な説明に、あたし達は怒ったが、従うしかなかった。

 なにせ魔王を倒さないかぎり、あたし達は、現実世界こちらに帰れないと脅されたのだ。


 ――まるでゲームみたい。


 結局、現地人の勇者に、あたし達4人は無理矢理付いていくこととなった。

 松本先輩は、戦士ファイターに。

 美鈴は、魔法使いメイジに。

 軽井沢さんは、僧侶ヒーラーに。

 あたしはというと……武闘家モンクになった。


 無理矢理、勇者と共に旅立った。

 その旅はゲームでも何でもない。

 痛いし、怪我もする。モンスターといわれる野獣は、本気であたし達を殺しに来る。


 ――夢であれば覚めてくれ!


 そう何度も願った。だけど、松本先輩は死んでしまった。

 酷い死に方だった。野獣モンスターに食い殺された。


 美鈴が先輩を好きだったことは知っている。

 先輩の肉片かけらを集めて、ヒーラーのカオリは何度も回復魔法をかけた。だが、復活することはなかった。


 ――ゲームなら復活するのに!


 そんな簡単なことじゃなかった。


 あの世界の勇者はぶっきらぼうに、無駄だという。それがあの世界の常識かもしれないけど……当然、あたし達は怒り、勇者とケンカ別れした。だけど、行く当てもないまま、知らない世界を彷徨うしかなかった。

 目的のない旅は……とても辛かった。


 ――モンクのあたしが護らなければならないのに……


 女3人では生きていくのに限界を感じていた。

 そんな時、傷心していたメイジのミスズが死んだ。


 ある日、野盗に襲われたのだ。


 油断していた事もある。だけど、それまでは、勇者と松本先輩ファイターで何とかなってた事を思い知らされた。

 モンクのあたしだけでは、ふたりをかばう事はできなかった。

 先に野盗共は攻撃魔法を使うミスズを追い詰めた。あたしは、カオリを護るのが精一杯で気がついた時には、全身血だらけになっていた。


 ――次はあたし達だ。


 覚悟を決めたあたしとカオリだったが、そこにあの勇者が現れた。

 ケンカ別れしたとはいえ、あたし達を探してくれていたのだ。


 ――そこで惚れたのかもしれない。


 柄にもなく、あたしはこの勇者に好意を抱いた。

 でも、あたしは黙っていることとした。


 あたしよりも、ヒーラーのカオリが積極的に彼にアプローチをかけていたから――


 クラス委員長をしているぐらい彼女は頭もいいし、落ちついている。

 現実世界でも密かに男子が、噂していることぐらいは知っていた。


 ――あたしには敵わない。

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