歩みの民

雨宮テウ

第1話

I dedicate this story to Aru's music.


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小さなハープを奏でながら、石の上に腰掛け、

遺跡に吹く吐息のように静かに物語は始まる。


『この〝星の命の源〟に、

人の行いを伝え続ける

使命を持った一族がいました。

歩みの民はその体に人々の行いを記憶することができるのです。

留まることを許されず、

歩んで歩んで目にした人々、

耳で聴いた声、その場所に息づく人々の温度、

営み、心や過ち、

人に関することをその体に記憶させていく

旅の一族でした。』


『その頃人々は皆、

自然の中の何かに属しており、

風の民、大地の民、空の民、海の民として

この星の一部と通じながら

人として生きていました。

その中で歩みの民だけが生きている間、

星と繋がることなく、

他の民たちの生きる調べを体に記録し続けるのでした。』


『大地の民は歩みの民に言いました。

大地から伝わる生きた熱は、

生ける心の凍えを溶かすことでしょう。


 空の民は歩みの民に言いました。

空と天を繋ぎ読み、届いたメッセージは

生ける心の助けになりましょう。


 海の民は歩みの民に言いました。

生命の源を汚さず守り、

息づく魂を繋いでゆけましょう。


 風の民は歩みの民に言いました。

天と地と海を風で行き交い想いを結び、

真の孤独を吹き散らしましょう。』


歩いて聴いて、歩いて知って、

歩いて目に焼き付け、

歩いて感じて、歩いて、歩いて。


『時には悲しい苦しい出会いも、

手放したくないような

尊い出会いもありましたが、

歩みの民は、歩き続けなければなりません。

疲れても、辛くても歩きました。

なぜ、みんなのように留まって息づくことが許されないのか、

と運命を問う日もあることでしょう。

しかし彼らは歩みを止めませんでした。』


『なぜなら、歩み記憶すればするほど、

彼らの中に息づく“消えない記憶”が

輝きを、熱を増していくことがわかるからでした。

それは最期に確信に変わるのです。』



『“消えない記憶”

それは、記憶した全てを星に還す歩みの民が、

一つだけ次に生まれる時に星から返されてきた受け継がれる記憶でした。

生まれた時から

そのセピア色の記憶を心に歩き続け、

色をつけ、香りをつけ、彩度と温度を知る。

そこに無くせない大切な答えがあるから、彼らは歩み続けることができるのでした。』


『そしてたどり着くこの遺跡。

遺跡の中で、

これまで出会った人々の記憶を思い返しながら

長い歩みの時を終えた民は、

〝星の命の源〟へ繋がる遺跡の中で眠り、

土へ還っていきます。

歩んできた大地と一つになっていき、

〝星の命の源〟へ記憶をすべて伝えきるのです。』


物語を弾き語っている1人の老人は言った。

『これが、私の先祖、歩みの民の一生でした。今、私は記憶を引き継ぎ歩みの民の末裔として生まれましたが、もう歩んではおりません。

長い長い時、

他の民たちが愛しんだ星との人生。

その人生を伝えてきた歩みの民の姿は

もうありません。

〝星の命の源〟は、人に星を与えました。

歩みの民は人が与えられたこの星で生きていける事を伝え続け、

ついには〝星の命の源〟はそれを受け入れたからです。

けれど、

どこからともなく悲しい知らせが

〝星の命の源〟に届くようなことが

あったのなら、

また、

私の一族は歩むことを思い出すでしょう。』


小さなハープを奏でる手は

静かな余韻を漂わせるのでした。

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歩みの民 雨宮テウ @teurain

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