第10話:団欒
「なぜルイがメイド服を着ているんだ?」
彼女は俺にメイド服を見せるように、その場でクルリと回って見せた。
動くところを初めてみたが、ぎこちなさが全くなく滑らかな動きだ。
ただ表情は硬く、そこは人間にはなり切れないものを感じた。
「裸にしておくわけにはいきませんので、とりあえず私と同じメイド服を着せました。昔私が着ていたメイド服がピッタリで良かったです。」
「そういえばルサも太ったからなあ。」
エリゴールがデリカシーのない言葉を投げかけると、ルサは鋭い眼光で睨みつけた。
「初めてここに来たときは痩せてて心配だったから、良かったよ。女性はふくよかな方が魅力が増す。」
彼はその眼光をまったく気にせず、話しているところを見ると本当に悪気はないのだろう。
「旦那様、女性に太ったとは二度と言わないで下さい。悪気はなくても傷つける事があります。」
「ああ、そうだったね。こもって研究してると会話する機会がなくなるせいか、物言いがストレートになる。」
彼らの会話を聞いていると普通に仲がいい夫婦に見えて、ルサさんが監視のために偽装結婚しているようには見えない。
だが何気ない会話の中で、腹の探り合いをしているのかもしれない。
「マスター似合ってますか?」
「ええ、ああ似合ってるよ。」
そんな事はお構いなしに話しかけてくるルイ。
さすが人形、空気が読めない。
「ルイ、体に不自由はないか?」
「ありません、寝ていた時とは違って、なんでも出来そうな気がします。」
「何でも出来るか・・・ルイは何が出来るんだい?」
「わかりませんが、マスターからの命令があれば何でもできます。」
(言っていることが矛盾している。これはやる気だけがある無能のセリフだな。とりあえずステータスを確認すればいいか。)
俺はさっそくルイのステータスを確認する。
名前:ルイ 年齢:不明 種族:人形
レベル:0 職業:なし
HP:? MP:?
力:? 知力:? 精神力:? 体力:? 素早さ:? 運命力:?
確認したところ、不明だ。
「エリゴールさん、ルイのステータスが不明なんですけど・・・」
「彼女は今まで眠っていたので、データが何もありません。」
「じゃあ何が出来るかも不明ってことですか?」
「そうです。ただ、戦闘タイプというのはわかっています。」
「戦闘タイプ?」
彼女は戦闘タイプにはまるで見えない。
たしかに均整のとれたプロポーションだが、女性の域は出ていない。
そもそも戦闘タイプなら男性の方が強くなるとは思うのだが。
「たしかに女性で戦闘タイプは違和感があります。そういう不明点が多すぎるので色々データを取りたい、だから人形師のあなたを派遣してもらったんです。」
「なるほど、それが組織での俺の仕事というわけですか?」
「察しが早くて助かります。さっそく明日からデータ取りに強力してくれますか?」
「はい以外選択肢なんてないんでしょう?」
「そういう事です。という事でもう昼ですからご飯にしましょう。」
彼がそう言うと、ルサさんは待ってましたとばかりに、部屋の中にある台所で調理をし始める。
俺達は三人ともテーブルの椅子に座って、料理の完成を待つことにした。
(何を話していいかわからない。これは気まずいな・・・。)
エリゴールも気まずいのか、目を閉じて腕組状態になった。
ルイの方を見たが、真っすぐ虚空を見つめている。
人間のような見た目でも、やはり人形だ。
俺は時間を潰すために何となく料理を作っているルサさんを見てるとある事に気付いた。
台所が現代と相違ない作りだった。
コンロや蛇口など、中世ファンタジーらしからぬ作りで違和感が凄い。
周りにも現代の便利グッズなどが置いてあり、本当に異世界なのかと疑いたくなる。
「は~い、できました。」
ルサさんの料理が完成し、運ばれてきたが驚くべき事によく見る料理だった。
「これは、カレーですか?」
「夫が好きなので、アガレスさんも好きかと思って。」
もちろん好きだが、異世界でカレーが食べられるとは思わなかった。
すると今まで嘘寝をしていたエリゴールが途端に話し始めた。
「組織は現代で有用な食べ物や道具などをこの世界で再現する事にも、力を入れています。それが組織の資金源でもありますね。」
「異世界は技術的には現代と比べて遅れているんですか?」
「遅れています。悪魔を異世界に追放した後、人間同士の争いが続き思うように発展しなかったようです。」
「そんな事で発展が遅れるんですか?」
「私も聞いた話なので詳細はわかりません。」
平和ボケしている俺にはピンとこなかったが、どの世界でも人間同士の争いは無くならないということはわかった。
「しかし、こんな露骨な異文化技術を提示して混乱しないんですか?」
「もちろん、混乱しない程度の技術をこの世界に合わせてカモフラージュして売ってますよ。もちろん組織内では露骨に使ってますよ、ここの台所のようにね。」
異世界召喚でフィギュア好きだったので人形師を選んだら無能職でした 国米 @kokumai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界召喚でフィギュア好きだったので人形師を選んだら無能職でしたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます