第9話:魔人

「ルサさんの種族、魔人っていったい何なんですか?」


我ながら的を得ていない質問だが、この世界の常識を何も知らない俺にはこう質問するしかない。

彼は少し悩んでいるようで、質問の仕方が悪かったのかと心配になった。


「えーと、質問の仕方が悪かったですかね?」

「いえ、そういう理由ではないんです。そうですね・・・まず魔物とは何かから説明しましょうか?」

「なぜ魔物の説明を?魔物ってたしか・・・悪魔の下僕の事でしたっけ?」

「魔物とは、悪魔が異世界の魂にこの世界の生物の体を与えて作り出した下僕達のことです。」

「生物とは?」

「この世界の生態系は私達の世界とそれほどかわりませんので、例えば・・・犬とか猫とか、まあそういうものです。」

「つまりは人格を乗っ取っとるという事ですか?周りの生物が魔物に取って代わられるなんて、なんとも恐ろしい・・・。」

「彼らはそんな理性的な考えは出来ません。魔物になった者は欲望に忠実になり酷く狂暴な存在になります。そして強くなりたいという衝動もあり、周りの者を襲い魔力を吸収し、より強力な存在に変質する事もあります。」

「変質?」

「巨大になったり、殺した生物の特徴を奪ったり、特殊な力を宿したり・・・。」

「なるほど、それが魔物ですか。しかし、なぜ今そんな話を?」


「それは・・・魔人というのは人間と魔物との混血児だからです。」


衝撃的な話だった。

しかし、そこに大きな疑問も浮かんだ。


「魔物との混血だなんて・・・そんな事が遺伝子的に可能なんですか?」

「人間の魔物なら可能です。」

「人間も魔物になるんですか?」

「ええ、可能です。しかも欲望に忠実になるという事は性欲も高まるという事です。」


恐ろしい話だ。


「しかし彼女は人間と変わらないような外見と能力だったけど、何か違うところがあるんですか?」

「魔物になったとしても、元の体が人間だから子供に影響はありません。」

「つまり人間と変わらない存在なんですよね?それなのに魔人と表示されるのは?」

「魔物との混血児など、当然ですが忌み嫌われています。それ故、生まれる前や生まれた時点で殺されますが、たまに生き延びると、憎しみによって人に害をなす存在になる事がほとんどです。だから見た目や能力が変わらなくてもそうやって区別しているのです。」


(酷い話だが、得体のしれない生物の子供なんてたしかに恐ろしく感じるのは当たり前か。現実でも肌の色が違うだけでもいがみ合うから当然といえば当然か。)


「しかし、なぜ区別されている魔人を妻にしてるんですか?」

「この世界に来て、1年ぐらい経過したときに組織から彼女をあてがわれて結婚させられたんですよ。」

「なぜそんな事を?」

「私が裏切らないように監視するためですよ。組織は迫害されて行き場所のない魔人達を保護しているので、忠実な下僕として信用できますから。」


(なるほど一見和やかに見えてもそんな裏事情が・・・ここで生き残るのも大変そうだな。)


「承知しました。それともう一つ聞きたいのですが、彼女に職業がなかったのですが、どういう事でしょう?」

「この世界には国に雇われている冒険者が存在していて、彼らの強さをレベルで判断しています。つまり認定されている職業しかレベルの概念が存在しないということです。」

「じゃあパン屋さんとか花屋さんとかは職業なしになってしまうという事ですか?」

「少なくとも私達のデータには不必要ですから表示されませんね。」

「なるほど。」

「もうよろしいですか?そろそろルサの準備が終わるころですから、今回はここまでにしましょう。」

「わかりました。」


話が終わったとたん、扉が開きルサが部屋に入ってきた。


「ないしょ話は終わりましたか?」


あまりにもタイミングよく部屋に入ってきたので、話を聞かれたのかと背筋が凍る。


「終わったよ。彼女の準備は終わったかい?」

「ええ、悪くないと思うわ。」

ルサさんの態度が先ほどと変わらないところを見ると、話しを聞かれてはなかったようだ。


「じゃあ、入って。」

合図とともに誰がが入ってきた。


金髪碧眼でルサさんと同じようにメイド服を着た女性だ。

しかしどこかで見たことがある気がした。


「マスター、お久しぶりです。」


その言葉で誰なのかわかった。


「まさか、ルイか?」

「ええ、マスターもお元気そうで何よりです。」


























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