第7話:マスター

「アガレス様、私はルイと申します。よろしくお願いします。」

彼女は寝た体勢のまま首だけこちらを向けて挨拶した。


「こ・・こちらこそよろしく、ルイ。」


まるで人間のような外見と、無機質ではあるが意思疎通も可能な人形に俺は驚きを隠せなかった。


「意志を持つ人形の製作は大昔に打ち切られたのでは?」

「そうですね。ただ、我が組織には存在します。」


彼はそれ以上答えるつもりがないようで、次の段階へと話を進めてきた。


「さて挨拶も終わりましたし、さっそく契約しましょう。」

「契約?具体的には何をするんですか?」

「彼女は他の人形と違って意志を持って自由に動けますが、魔力を絶えず供給しないと動きません。その供給源をあなたにセットする作業が必要なんですよ。」

「魔力ってなんですか?MPを消費するという事ですか?」

「魔力はこの世界の唯一無二のエネルギーで、この世界のあらゆる物が魔力で動いています。ステータスで言うとMPとなりますね。」

「それでMPを吸われ続ける俺の体は大丈夫なんですか?」

「彼女は定期的に空気中の魔力を吸収し続けるので、それほど必要ありません。もちろん行動によっては倍増したりしますが・・・。具体的には、1時間約6消費するとして、あなたが寝ている時間は動かさない計算とすると・・・まあ一日約100消費するぐらいでしょうか。」

「半分以上削られるじゃないですか・・・。MPが減ると何かペナルティとかないですよね?」

「MPが本当に無くなれば動けなくなりますが、ステータスに表示されている数値は余裕がある範囲で設定されていますので0になっても疲労感を感じるだけです。それに、MPは食事や睡眠で回復しますし、あなたの体に負担がかかるときは、彼女は自動的にスリープ状態に入りますので問題ないと思います。」

「・・・俺を実験台にするつもりとかじゃないですよね?」

「彼女について色々調べましたが、わからない事が多い・・・試すには人形使いの能力を持っていないと出来ないので、実質実験台にはなってしまいますね」

「否定しないんですか?」

「ええ、事実ですから。それを踏まえてお願いできないでしょうか?」


彼にはこの人形の能力を見たいという純粋な好奇心だけで、悪意はあまり感じられなかった。

俺は考えた結果、契約する事にした。

契約するためには、彼女に俺の魔力を覚えさせないといけないらしく、最初だけ直接体に触れる必要があるらしい。


「では箱を開けますので、下がってください。」


彼がボタンのような物を押すと、覆っていた箱の上半分が上にスライドして彼女の体全体が露わになったが、驚いたことに裸だった。

彼女の体は球体人形と違って関節部に継ぎ目はまったくなく、均整のとれた見事なものだったが、左右非対称で肌の質感も生々しい。


「さあ彼女の手を握ってください。それで契約が成立します。」


俺は言われるまま彼女の手を握ると、体から何かが抜き取られる感覚があり酷い脱力感に見舞われた。

すると、彼女はゆっくりと上体を起こし、目を開いて真っすぐ見つめてきた。


「契約が完了しました。アガレス様、これからよろしくお願いいたします。」

「ああよろしく・・・。」


俺は挨拶をしたと同時に、その場に倒れ込み意識が途切れた。


















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