第6話:人形

「わかりました、あなたに従いますよ。」

俺はエリゴールの事を信じてこの世界を前向きに生きてみる事に決めた。


「それはいい判断です。悪いようにはしませんから安心して下さい。」

すると彼は立ち上がり、俺についてくるように促した。


「あなたは人形師ですから、人形が必要でしょう。」

「たしかに、そうですね。」

俺は彼に促されるまま、隣の部屋に移動する。

部屋は薄暗かったが、床の一部が明るく光っていた。


「床の光っている部分が隠し階段の場所です。壁の光っている部分に手を当てると開きます。」

「こんなに目立つと隠し階段とは言えないのでは?」

「ゴーグルを装備している組織の人間しか見えませんし、装備していないと反応しませんので問題ありませんよ。」


彼はそう言って、壁に手を当てるとゆっくりと床が上がり、降り階段が現れた。

中から光が漏れてくる。


「地下なのに明るい?」

「これもゴーグルを付けているから明るく見えるのです。」


階段の先にたどり着いた部屋はかなり広く、色々な物が置いてある倉庫だった。

そして彼の指さした場所には何体かの球体人形が横たわっていた。

どれも何の装飾もしていない素体で150cmぐらいの大きさだった。


「この人形を動かして戦うのか?」

「とりあえず動かせるかどうか試してみてください。あなたはもう人形師の力を得ているので、どうするかはわかっているはずです。」


(そんな簡単に出来るものなのか?)


とりあえず人形に近付いて、動くように念じてみる。

体から何かが流れ出る感覚がした途端、カタカタと人形の体が動き始める。

ただ、四肢をバタバタさせるだけで意味のある行動をとる気配がない。


「もう少し具体的なイメージをするといいと思いますよ。」


(イメージか・・・立って・・・歩け!)

俺は頭の中でイメージしてどう動くかを思い描く。

すると、人形はいびつながらも両足で立ちフラフラと動き出す。


「おお、動いた!」


初めての体験に気分が高揚する。

そのまま、もっと滑らかに動かせるように色々試してみるが、なかなかうまくいかない。

夢中で動かしていると、酷い疲労感を感じ膝をついた。


「無理をしない方がいいですよ。人形を操るのは、たえず集中している状態になりますし、魔力を消費し続けます。長時間の使用はやめた方がいいですね。」

「長時間?そんなに経った気がしませんが?」

「だいたい10分ですね。」

「10分?それでは実践では使えんでしょう。もっと鍛錬が必要ってことですか?」

「いえ、熟練しても多少伸びるぐらいでそれぐらいが限界ですね。」

「使い物にならないじゃないですか?!」

「危険な場所を調べる場合やおとりとしては使えますよ。ただ、イメージして動かすので目で見える範囲までしか無理ですね。」


(好きなキャラを自由に動かして無双とかと思ってだけど話が違うな。)


「昔は自分の判断で動き、死ぬ事のない最強の人形を対悪魔用に研究していたようですが、コストと時間の問題で打ち切られ、人形師という職業だけ残ったという感じですね。」

「もしかしてハズレ職業なんですか?」

「一般的にはそうですね。」


(失敗したなあ・・・。異世界生活いきなりハードモードだ。)


落胆する俺の肩をポンポンと叩き、

「そう落胆しないでください。こちらに来てくれますか?」

彼は倉庫の奥へ来るよう促した。

乱雑に物が溢れる場所の奥へ進むと、人が入れるぐらい大きな透明の箱が置いてあった。

ずっと置きっぱなしだったせいかホコリだらけだ。


「本当にすぐホコリまみれになりますね。面倒な事です。」

「よく見えないけどこの中には何がはいっているんですか?」

「人形ですよ。とっておきのね。」

「なるほど、だからこの大きさか・・・。」


俺は軽くホコリを払って中を覗き込むと、金髪の女性の顔が見えた。

彼女は目を閉じて眠っているようだ。

見たところ人間にしか見えない。


「これが人形ですか?」

「ええそうです。」


彼が箱にあるボタンを押すと「ブゥゥゥン」という音が鳴りだした。


「今何をしたんですか?」

「人形を起動させました。」


すると、箱の中の人形の目が開き、こちらを青い目で凝視してくる。

人形というだけあって、顔に表情が感じられない。


「おはようルイ君。問題ないですか?」

「おはようございますエリゴールさん。体に異常はありません。」


(少し機械的だか、普通に話せるのか。本当にこれは人形なのか?)


「それは良かったです。実は今日は君に紹介したい人物を連れてきました。」

そう言って、俺を彼女の顔に近づける。


「彼の名前はアガレス、君のマスターです。」
























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