第5話:説得
俺はエリゴールにゴーグル型鑑定器具の本格的な説明を受けることになった。
「まずご自身のステータス画面を表示してみてください。ゲームのステータスウインドウに近いので、それをイメージすれば可能なはずです。」
彼の言う通り、頭でイメージしてみると、よくあるRPGのステータス画面が目の前に表示された。
名前:アガレス 年齢:19 種族:ヒューマン
レベル:5 職業:人形師
HP:56 MP:178
力:13 知力:13 精神力:14 体力:14 素早さ:13 運命力:15
(これが俺のステータスか。・・・比較対象がないから強いか弱いかわからないな。しかし19歳か、随分と若返ったなあ。種族が記載されているという事は色々いるのかな?というか人形師になってるな・・・そういえば指輪どうしたんだろう?)
俺はふと気づいて左手を確認すると、指輪が無くなっている。
「どうですか?見えますか?」
「ええ、見えました。まるでゲームのようですね。」
「製作者がなじみの深いゲームを参考にしたそうです。」
「ステータス画面で人形師となっていますが、そうなるための指輪が無くなっているんです。これはどういう事でしょうか?」
「ああ、職業の指輪はなるためのきっかけにすぎません。もうなくてもあなたは人形師ですよ。」
(きっかけ?あの時、指に痛みが走ったが、もしかして何か注入された?)
「きっかけとは何でしょうか?もしかして薬とかを投与されたとか?」
「それは私の領分ではないのでわかりません。」
彼は興味なさそうに、俺の質問を一蹴すると、次の説明に入った。
取り付く島もない。
「次は相手の能力の鑑定です。私で試してみてください。」
彼を見てステータス鑑定のイメージをしてみると、自分のステータス画面が消えて、代わりにエリゴールのステータスが表示された。
名前:エリゴール 年齢:25 種族:ヒューマン
レベル:15 職業:魔術師
HP:47 MP:185
力:11 知力:16 精神力:15 体力:12 素早さ:14 運命力:12
(レベル15の魔術師!強い!ただ、能力はそれほど俺と変わらない。レベルアップによる能力アップはないのかもしれない・・・となると技術やスキルなどが増えたりする違いなんだろうか?)
「確認できましたか?」
「ええ、レベル15の魔術師とは驚きました。ただ能力は俺と変わりませんね。」
「レベルというのはその職業の熟練度のようなもので、上昇によって肉体が強くなったり頭が良くなったりしませんから。」
「たしかにそうですね。」
「ただ、戦士なら武器の扱いがうまくなりますし、魔術師なら使える魔術が増えたりしますね。まあ・・・ゲームとは違って、レベルがすべての世界ではないですから・・・目安のようなものです。」
(それならレベル差があるこの人に勝てる可能性はあるって事か。ゲームだとレベル差があったら負けないけど、現実ではいくら強い人でも、後ろから刺されたら死ぬもんな・・・。)
「なんとなくわかりました。」
「では他の機能の説明もします。」
その後、多種多様な機能の説明を受けた。
機能が多すぎて、ほとんど理解できなかったが、慣れていけば使えそうな物が何種類かあった。
「説明は以上です。使っていけば慣れていくでしょう。それと最後に、逃げるなどは考えないでください。あなたの生体データは組織のマザーコンピューターに保存済であり、全員に配られるゴーグルで位置を感知可能です。」
「・・・それではプライバシーもあったもんじゃない・・・。さすがにやりすぎではないですか?」
「そうですか?元いた世界も似たようなものでしょう。あなたが知らないだけで色んなものから監視されていますよ。」
「所詮、俺に自由はないという事ですか?」
「どう取られようと結構です。ただ、人間は集団で生きる生物です。絶対的な自由などありえませんし、絶対的な悪も善も存在しません。」
「だからと言って・・・」
「だからこそ、もっと気楽に生きていいんじゃないでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
すると彼は眼鏡の位置を治す仕草をして、姿勢を正した。
「失礼。実は私は元の世界で眼鏡をつけておりまして、その癖が出てしまいました。」
「・・・という事はあなたも転生者?」
「そういう事です。私もあなたと同じように死んでこの世界に転生しました。」
「・・・。」
「あなたがどういう死に方をしたのかはわかりませんが、私は40歳の時、自殺しました。理由は・・・簡単に言うと社会になじめなかったんですよ。真面目で神経質すぎたんでしょうね。それでもその年まで生きれたので長生きした方でしょうか。」
「・・・だから俺に今の状況を気楽に判断しろと?」
「私は何かやり遂げた事はなく、ただ生きてきただけの人間です。だから、うまい説得の言葉が見つかりませんが、とりあえずは受け入れてみてはくれませんか?」
彼はもっと冷徹な人間かと思っていたので、情に訴えてくるとは意外だった。
もちろん説得のための嘘など平気で言えるだろうし、初めて会った彼の事を信用できる要素は何もない。
ただ、断ったら殺されるので実際は受け入れるしかない。
それなのにこちらを説得しようとする分、まだ信用できるかもしれない。
「わかりました、あなたに従いますよ。」
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