第9話 クラスメイトはキラキラした目をする

 俺が戸惑い戦慄する暇も与えずに、嶋森は続ける。


「とはいっても、今回はあまり多くのことは覚えていません。途中まで油断していたので」

「つまり、いつもどおりの日常で、いきなり遭遇するってことなのか」

「いつも通りかどうかはわかりませんが……」


 これまでとは違い、ダイレクトに知人に影響が出るかもしれないからか、心細く断定を避けるような口ぶりだった。


 だが、まだ悲観するには早い。

 この夢が本当に予知夢なのか。ただの悪夢ではないのか。余談を許さない状況だからこそ、慎重に疑ってかかることが重要だ。


 兎にも角にも、夢について知らない限りは語ることは不可能。俺は嶋森にいつものように質問を投げかけた。


「その夢の内容は、どんなものだったんだ?」

「最初は私と有坂くんが、どこかの家でくつろいでいました。あれは多分有坂くんの家だと思っていたのですが、今日来て確信しました。家具の配置などが同じだったので」

「でも俺は嶋森に家の構造を話したことはないし、嶋森も知らなかったよな」

「そうですね」

「うぅん……」


 となると、嶋森は知らない家を夢で見て、しかもその家が俺のものであると悟ったわけである。どちらも普通の夢ではまずありえず、予知夢であれば説明可能なことだった。


 今回は、予知夢とみて良さそうである。

 そうとわかれば、やることは一つだ。


「嶋森。続きを話してくれないか?」

「もちろんです。でも、チャーハンが冷めてしまうので、食べながら話しましょう」


 嶋森はぱくっとチャーハンを一口頬張り、飲み込むと、口を開いた。


「まず、私と有坂くんはリビングでくつろいでいました。夕方の、日差しがよく差し込んでいた頃だったと思います。

 唐突にインターフォンが鳴って、有坂くんが応対したんです。

 私のいた位置からははっきり見えなかったのですが、黒いパーカーを着ていてフードを被っているということはわかりました。

 それでいつかの都市伝説を思い出して、有坂くんに言ったんですけど……。有坂くん、私の制止を振り切って玄関の方に行ってしまって……」


 何やってるんだ、俺は。

 一通り話を聞いてみた感じだと、明らかに怪しい。セールスなんかのほうがもっと親しみやすそうな服装をしているだろう。

 そんなやつ相手に玄関まで出向くとは……。未来の俺が心配になる。


「どうですか? 何か気づいたことや気になることはありますか?」

「そうだな……インターフォンから、その相手の声が聞こえたりはしなかったのか」

「していたと思うんですけど、聞こえなくて」

「そうか……」

「有坂くんの反応がやけに自然だったことは断言できます」

「でも不審者の知り合いなんていないしなぁ」


 俺は頭を抱えながら、またチャーハンを口に入れる。無意識のうちに食べていたから、もうチャーハンの残りも少なくなっていた。


 現時点では不確定事項が多すぎる。さっぱり思考が進まなくなってしまった。

 俺は無意識のうちに「さっぱりわからないな……」と声を漏らしていた。


 そんな俺を見て、嶋森ははにかむとパンと小さく手を叩いた。


「では、夢の内容を再現するところから始めますか」

「……?」

「有坂くん、この家のゲームがある場所って、どこですか?」

「えーと、テレビが置いてある台の中だけど」


 嶋森は俺の言葉を聞くなりテレビの方へ向かうと、長らく使ってなかったゲーム機を引っ張り出してきて、俺に向かって掲げるようにして見せてくる。


「遅かれ早かれ私たちはゲームをする未来がわかっているので、もう今からゲームをしましょう」

「……なるほどね」


 たしかに一理ある考えだった。進展のない今よりは、少し手を動かしてみるほうが頭も回るかもしれない。

 それになにより――


「嶋森。ゲームやりたかったんだな」

「なっ!? そんなことないですけど……!」

「ふぅん」


 瞳を燦々と輝かせて、ちょっとそわそわして、弾んだ声で誘ってきながら、今更何を言うのか。どう考えてもゲームをやりたいのだろうが、素直じゃない。


「なら、やってみようか。ゲーム」

「っ! はい!」


 嶋森の瞳が、いっそう輝きを増した。

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