第4話 クラスメイトと俺は宇宙人以上にヤバい展開になる
「嶋森の見る夢は、大きく二つに分けられるって話は何度かしているよな」
「そうですねー。たしか予知夢と、そうでない夢でしたっけ」
「ああ。それで今回の夢はどっちに分類されるのか……こればかりは嶋森にしかわからないのだが」
「予知夢です」
多少食い気味に、嶋森は断言した。
「予知夢じゃないときって、起きたらなんとなくわかることが多いんです。あまりにも荒唐無稽すぎたり、感じていた熱が急に冷めてしまったり」
「でも今回だって、宇宙人の襲来とかは十分荒唐無稽じゃないか?」
「はっきりと宇宙人の姿を視認したわけではないですし、何より、まだ熱を感じています」
嶋森の瞳が俺を貫く。先の言葉通り、強い意志を感じる視線だった。
当の本人がここまで言うのだから、これ以上の詮索は必要ないか。
俺はパンっと手を打ち鳴らすと、「よし」と声を上げた。
「ならここで話し合うよりも、実際に向かってみるほうがいいだろう。予知夢なんだとしたら、その内容は必ず、寸分違いなく当たる。嶋森が言っていた資料室というのも、おおよその検討がついているしな」
「そうと決まれば、行きましょう!」
久しぶりの課外活動ですね! と、俺の前で柚木崎が威勢よく片手を振り上げた。
◇
SF研の活動で、これまでも資料を使うために物置部屋のようなところに行ったことはあった。この学校で資料室といえばそこぐらいだろう。ということで、顧問の先生に――宮田先生に許可をもらい、その物置部屋を捜索してみることにした。
ちなみに宮田先生は嶋森の予知夢のことを知らない。何も知らないのに、いきなり物置部屋で探し物がしたいという俺たちの頼みを聞き入れてくれるあたり、本当は優しいんだなということを痛感する。どうせならテストももう少し簡単にしてくれないかな。
解錠し、扉を横に引く。ぎぃと軋みを挙げたものの、案外すんなりと扉は開いてくれた。埃っぽい空気が鼻いっぱいに広がった。
六畳ほどの空間に、三つのラックと、いくつかの机、椅子などが押し込められている。床にも本が積み重なっていて、お世辞にも整っているとは言えなかった。
「久しぶりに来ましたけど、相変わらずですね……」
隣で嶋森がぼそりと呟く。柚木崎も顔をしかめているあたり、どうやらみんな同じ見解のようだった。
「見たところ異常はないようですが……どうですか? 嶋森先輩的には」
「うーん……多分、あの窓際だと思うんですけど」
嶋森が指さした先を見ると、ラックで寸断されているものの、窓から陽光が差し込んでいるのが見えた。なるほどたしかにあそこなら、夢で見ていた光景に近そうだ。
「なら、少し待ってみるか」
「そうですねー。あ、私この部屋入るの初めてで気になることだらけなんで、ちょっと見てきます!」
「何もないと思うけど、気を付けてね」
好奇心旺盛な柚木崎の背を見送りながら、俺は窓に近づき外を眺めてみた。嶋森の夢通り、運動場で野球部が活動している様子が見える。薄っすらとだが、掛け声のようなものも聞こえてきた。
それにしても、眩しいな……。光がもろに目に刺さってくる。
「有坂くん。どうですか? なにか気づいたこととか」
「いや、今のところは」
「そうですか。まあ気長に……」
嶋森の言葉が急に途切れた。いつもゆったりとした雰囲気が霧散する。
「有坂くん……あれ……!」
嶋森は勢いよく窓の外に指先を向けた。その先を辿って視線を向けると、
何かが、こちらに猛スピードで近づいてきていた。
それは小さくて、先の嶋森の言葉通り光っているように見えた。あれは一体何だろうか。
しかし事態は刻一刻を争う。呑気に考えている暇なんてなかった。
「嶋森!」
俺はとっさの判断で嶋森に覆いかぶさるが、そのままバランスを崩してしまった。唐突なことで体が追いついていない嶋森を抱え込むようにして、床に倒れ込む。
同時に背後で、窓ガラスが砕ける音がした。
半ば事故のようなものとはいえ、押し倒してしまったことに罪悪感を感じながら、まずは無事かどうか確認しようと上体を起こした。
「嶋森! 大丈夫か」
「はい……私は大丈夫なんですけど……あの、これって」
しどろもどろになる言葉。嶋森の顔がかぁと紅潮していく。そこで俺はやっと自分の状況を俯瞰して考えることができた。
床に仰向けになって倒れている嶋森に、腕立て伏せのような姿勢で覆いかぶさっている俺。
非情にまずい状況だった。
「先輩! 大丈夫ですか……って」
尋常じゃない音を聞いてか、そこに柚木崎まで乱入してくる。
多分俺も、真っ赤な顔をしているに違いなかった。
あれ……これ、知らない人が見ればなかなかにやばい状況じゃないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます