第3話 からかい好きな後輩は俺の話をよく遮る

「あれは多分、学校の資料室だったと思います。ラックがいっぱいあって、その中に本やよくわからない道具が置いてあったので。


 そこで私は、窓の外に目を向けました。あぁ、それまでの経緯とかは覚えてないです。

 外では運動部が掛け声を挙げていて、それがこちらにまで聞こえていました。あと、ものすごく快晴でした。


 で、そのときです。なにか球状のものが、光を発しながらものすごいスピードでこちらに迫ってきたんですよ! 気がついたらもう目の前にあって、しかも眩しくて眩しくて……。夢なのに目がやられるかと思いました。


 これは避けられないな、と本能で感じました。


 でも話はこれだけじゃないです。立ちすくんでいた私の目の前に、大きな影が現れたんです!

 その影、銃声かと思うくらい大きな音を立てて……。その上私のことを押し倒してきて。


 床に倒れこむ瞬間、目が覚めました。


 これ、宇宙人か何かだと思いませんか?」


 一通り話が終わり、場が静まり返る。ちなみに嶋森は話なら少しずつ身を乗り出してきて、今ではまさに目と鼻の先にいた。途中から話に集中するのに必死だった……。


 俺はそっと席を立つと、考えるふりをしながら窓際へと移動した。流石にあのままでは心臓にも思考にも良くない。


「……ひとまず、話を聞いてみた率直な感想だけど、それは本当に宇宙人なのか?」

「その可能性はゼロじゃないでしょう。少なくとも夢から覚めた直後の私は宇宙人だと確信していました」

「それ、信用に足る証言なのか……?」

「…………いいえ」


 十分くらい前の自分の行動を思い出したのか、嶋森は急に声のトーンを落とす。が、小さく首をふると、黒歴史は一旦忘れることにしたのだろう、これまでの調子に戻った。


「それでも! 考える価値はあると思うんです」

「たしかにそうかも知れないけど」

「似たような事態が起こることは、十分に考えられませんか」


 だって、的中する確率、九割ですよ! と言い足す嶋森だったが、それでも俺は信じ切ることができなかった。普段なら嶋森の夢を頼りにしている俺だが、あり得なさそうな状況だと頼りにするのはちょっと怖い。


 こういうときは、客観的な視点で確信を持ってこそ動くことができるものだ。


 俺は棚から、感想を書いていたのとは違うノートを取り出した。表紙に「予知夢の研究」と書かれていて、使い込まれた跡がある。


 それは、嶋森の予知夢についてわかっていることが綴ってある、俺渾身のノートだった。


 俺はその一ページ目に書かれている、「夢の種類」という項目を嶋森にも見えるように開いて――


「それじゃあ、嶋森が見た夢だけど、この中――」

「こんにちは、せんぱーい! ってあれ、お話中でしたか」


 話し始めようとしたのだが。そのとき、部室の扉が勢いよく、バンッと開かれ、見事に出鼻をくじかれてしまった。

 嫌な予感がして目を向けてみれば、予想通りの人物が立っている。


 俺達と同じ制服だが、嶋森より少し短いように感じるスカート。ブレザーの代わりに前開きのアイボリーのパーカーを羽織っていて、薄茶色の肩甲骨ぐらいまで伸びている髪には編み込みが施されていた。


 俺と嶋森の後輩。そして、我がSF研の問題児。


柚木崎ゆきさき……また俺の話を遮るのかお前は……」

「あぁ! 有坂先輩のお話でしたか。なら良かったぁ」

「良くない! これで何度目だと思っているんだ」

「前のことなんて忘れました」


 ケロッとした顔で柚木崎は悪びれもせずに言った。

 相変わらず俺をからかってくるその様に呆れながら、俺は話を再開するタイミングを見計らう。


 柚木崎はそんな俺の視線も意に介さず、嶋森に「それでそれで、今日はどうされたんですか?」と笑顔で話しかけていた。


 対する嶋森も、気を悪くした様子はなく、これまでの話をかいつまんで説明していた。


「で、有坂先輩が夢についてより具体的に話そうとしたところで私が入ってきたということですか。

 それでは有坂先輩、おまたせしました。続きをどうぞ!」

「お前なあ……」


 状況を把握した柚木崎の、余りにも自分本位な発言にため息をつきそうになる。こうなったのは全部お前のせいなんだからな……。


 でも、悔しいことに、続きを話したいという思いは同じ。


 俺はあらゆる反論を飲み込み、口を開いた。

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