男色家の私がBLに思うこと

@2321umoyukaku_2319

第1話

 男色家になった理由が同性愛を描いた創作物に影響されたからだと思ったことはない。生来の資質であり外部からの刺激で自分が変化したわけではないと感じている。その種の作品に接したことがあってもなくても、私の性癖は変わらなかっただろう。

 だが同性愛を描く作品に触れた経験が私に何の影響も与えなかったわけではない。

「こういう恋愛が許されるのだ」

「私だけではないのだ」

「こんな私でも人を愛し愛される資格があるのだ」

 上に挙げたようなポジティブな意識作りに、男色家の登場する作品を鑑賞することは大いに役立った。そういった体験が無ければ、繊細な私のメンタリティーは粉々に砕けていたかもしれない。

 同性愛を描くことで、読者の私のメンタルを鍛えてくれた作品の幾つかを紹介したい。最初は大和和紀『はいからさんが通る』だったと思う。じゃじゃ馬ヒロインの恋と成長を描いた少女漫画の傑作で大正ロマンの代名詞的作品である。だが同性愛漫画の王道とは言いがたい。私が同性愛的なときめきを覚えたのは『花の番外編 霧の朝 パリで』である。本編に登場する編集長こと青江冬星あおえとうせいがペールという少年と知り合い、そして……という短編だ。二人の関係は優しさ、愛、絆といった表現で描写されているが明確な形で示されていない。想像の余地があった。それが甘美だった。

 次の二作品は、ほぼ同時に読んだと思う。青池保子『エロイカより愛をこめて』と魔夜峰央『パタリロ!』だ。前者に登場する男色家は美術品専門の怪盗エロイカことドリアン・レッド・グローリア伯爵で、彼が恋する男が北大西洋条約機構(NATO)情報部所属のドイツ軍人クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐、通称”鉄のクラウス”……と書いているだけで胸がドキドキしてきた。少佐は私の初恋の人だ。今も愛している。同じくらい好きなのは『パタリロ!』に登場する英国情報部の将校ジャック・バンコラン少佐だ。こちらも凄く好きで、一時期は彼を真似て黒い皮手袋で細い煙草を吸っていた。冷静に考えると、黒歴史だ……それでも好きだ。ただしバンコランには愛人ミストレスのマライヒがいる。私はマライヒも大好きなので、彼からバンコランを奪えない。二人の幸せを祈る。

 これらの物語に私が出会ったのは小学校の低学年だった。結婚して家を出た叔母が実家に大量に残していった書物を、幼い私が両親に隠れこっそり読みふけったのだ(笑い)。その後、自分でも叔母が好んだような作品を漁った。しかし、叔母の本棚にあった書籍で得られたような悦楽を味わったことはない。特に近年のBLには失望しか感じないのが正直なところだ。好みの問題、と言ってしまえば、それまでだが。私はロマンが好きなのだ。嗜虐的な同性愛なら要らない。ただでさえ世間から傷つけられてばかりの同性愛者を、創作の世界でも痛めつけて喜ぶBL信者の神経を疑う。

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