【第22回】かえりみち(テーマ:歩く)

「あれ、なんだったんだろう」

酒と火照りの渦に沈んでいった色々な言葉と感情が、夜風にさまされてふわりと思い出される。

「お前のみそ汁、毎日飲みたい、俺も作りたい」

なんだそれ、と笑いで流してしまったけれど、液体のようにどろりとしていた黒目の輪郭が、その言葉の瞬間だけはっきりとしたのを見た。

無意識に一駅前で電車を降り、ゆっくりと踏みしめるように歩く。

毎日、自分か彼のみそ汁が飲みたい。その気持ちは同じだよなあ、と冷たい夜風に話しかけてしまった。

恥ずかしくなってふと見上げると、そこには大きな丸い月があって、はやく歩いてもついてくる。ちょっと一人で考えさせてよ、思わず口から音がこぼれる。まだ醒めそうにない。


(了)

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