第2話

 ︎︎放課後、廊下で先輩を見かけた。

「先っ……」

涼乃すずの

 話しかけようとしたところで、わたしより先に女の子が先輩に話しかけた。わたしの声は途中で消えてしまう。

 ︎︎わたしはサッと壁に隠れると二人の様子を伺った。

 ︎︎って、わたしはなに盗み聞きしようとしてんだ!?

なぎか」

「今日このあと暇?」

「暇じゃない」

「だいぶ間があったけど」

「……はぁ、どうせ課題一緒にやろうとかそういうのでしょ」

「あたりー!」

「やっぱ用事できた」

「嘘つくな、嘘を」

「仕方ないなぁ。いつものことだしね。ジュース奢ってくれるならいいよ」

 怒ったり笑ったり。他の人から見たら些細な表情の変化だけど、彼女にだけは色んな表情を見せる。

モヤモヤとした感情が湧き出てくる。

 彼女――凪先輩のことはたまに見かけていた。先輩は幼なじみって言ってたけど本当に? ︎︎先輩はわたしといるより、凪先輩といた方が楽しいんじゃ……そんなマイナスなことばかり考えてしまう。

「おっけー! ︎︎じゃ、買ってくるよ」

「私は下駄箱で待ってるよ」

 ︎︎涼乃先輩は下駄箱の方へ、凪先輩は自動販売機の方へ向かった。

 ︎︎わたしは涼乃先輩じゃなく、凪先輩の方を追いかける。今、なんとなく涼乃先輩とは顔を合わせにくかったから。

「あの!!」

「ん? ︎︎君は……」

 ︎︎つい衝動的に話しかけちゃったけど、なにを話すか全然考えてなかった。どうしよう……。

「あ、涼乃の彼女の!」

「えっと……そうです」

「やっぱり? ︎︎陽咲ひさきちゃんでしょ」

「えっと渡辺わたなべなぎ先輩、ですよね?」

「うん、なぎでいいよ」

「それじゃあ凪先輩」

 ︎︎凪先輩は満足そうに頷く。

 ︎︎凪先輩は涼乃先輩とは正反対に感じる。彼女は明るく、よく笑う人だ。

「それで話があるんだよね?」

「その……凪先輩は涼乃先輩と仲がいいですよね」

「お〜?嫉妬かい?」

「うっ……」

 ︎︎図星を突かれて呻き声をあげる。よく考えたら嫉妬したから話しかけてる後輩ってやばくない?

 ︎︎牽制しにきてると思われてたりするんじゃ……。

「近づかないでほしいとかじゃなくて……涼乃先輩がわたしのこと好きなのかただ不安で……衝動的に話しかけてしまいました。ごめんなさい」

 ︎︎慌てて弁解したせいで、逆に余計なことを言ったかもしれない。

「大丈夫、謝らなくていいよ。分かってるから」

 ︎︎凪先輩は気を悪くした様子もなく、むしろ楽しそうな表情をしている。

「う〜ん、なるほどね」

 ︎︎凪先輩は一人で頷くと、言葉を続ける。

「ねぇ、陽咲ちゃんから見て涼乃はどう見える?」

「どうって……クールでかっこよくて自慢の先輩です!!」

「え? クール? あいつが?」

 凪先輩は驚いたような顔をすると、

「そっかそっか、なるほどねぇー! ︎︎ふふふっ……」

 なにがおかしいのかお腹を抱えて笑い出す。

 そんなやり取りをしていると、涼乃先輩がこちらへ来た。

陽咲ひさき?」

「あれ? ︎︎涼乃、待ってたんじゃないの」

「遅いから様子見に来たんでしょ」

 ︎︎涼乃先輩は怒ったように凪先輩を見ている。

 ︎︎わたしの方を見ていない涼乃先輩を見たらなんだかモヤッとした感情が再び湧いてくる。

「で、何話してたの?」

「え、えっと……」

「んー秘密」

 わたしがなんて言おうか迷っていると凪先輩はそう答えた。

「変なこと吹き込んでないよね?」

「さぁ? どうかな?」

「なーぎー?」

「おー、怖っ! ︎︎やっぱ課題は一人でやることにするね! ︎︎あとは二人でごゆっくりー! ︎︎じゃあねー!」

「あ、ちょっと!! あとで問い詰めるから!!」

 先輩は苛立ったような顔をしている。やっぱり彼女の前では先輩は表情が豊かになる。怒ったり笑ったり忙しい。わたしの前では見せない表情をする。

「仲良いんですね」

「ただの腐れ縁だよ」

「先輩は……」

 ︎︎――わたしのこと好きですか?

「うん?」

「……やっぱり、なんでもないです」

 その言葉の先は続かなかった。

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