第15話

「麻薬?麻薬ってなんだよ!薬の材料になるんならいい花じゃねえか!」

 イラーリはそう叫んで、ぐっと剣を握りしめた。

「アーノルドさん……」

カトレアは震え、怯える。

その目を見てアーノルドは剣を下げ、鞘にしまった。

「すまない。少しカマをかけた。脅してすまない」

「おっさん……なんのつもりだよ……」

イラーリは気を抜かず、剣を構えたまま。アーノルドと対峙していた。

「この花の名はアヘーナ。この花から作った薬は飲んだ者を多幸感に包まれ、どんな苦しみや痛みからも解放されるようになる」

「そ、そんな薬に?」

カトレアはその話に目を丸くして花に目をやった。

「だが、この薬のせいで今から約30年ちかく前、俺が新兵だったころだ。町一つが滅んだ事がある」

「「!?」」

 少女ふたりはその言葉に驚き、イラーリは

「なんだそれ、そんなレベルの話ならみんな知ってるんじゃねえのか?ってか幸せになる薬でなんで町が滅ぶんだよ」と疑問をぶつけた。

「この花の怖い所は自制心をも上回るレベルで依存度がある。一度使えば再びその幸せを感じるために……それこそ、この薬を手に入れるために生活のすべてを捨て、犯罪すらもためらわなくなるんだ。そのせいで町の治安は崩壊した。それこそ数か月で戦場より恐ろしい場所に変わった。時の王はその事を重く受けとめ、この花を歴史から消し去った。ありとあらゆる犯罪組織が恐れるほどに徹底的に、この花から作られる薬の存在を消した」

「こ、この花が……」

 カトレアは手を滑らせて、花の鉢を落としてしまう。

「わ、私、詰め所に出頭します。知らぬ事とは言え、そんな恐ろしい物を運ぶ所でした。ありがとうございます。アーノルドさん」

「お、おい。カトレア……」

その言葉にイラーリは震える。

「なあ、おっさん。俺はそういう事に詳しくないが、この花を運ぶ罪ってどんぐらいになるんだ?そんなでけえ罪にはならねえよな?」

「最低でも死罪だ。最高では知人に家族まで死罪になる」

「!?」

「い、イラーリ……」

「まあ、安心しろ。その話は当時の話だ。詰め所レベルの人間では存在自体知らず、虚言だと思われ、追い返されるだろう。軍の上層部に報告する。その際、彼女は無実だと伝えよう」

「おっさん……そんな事できるのか?」

「こうみえて、軍では古参だ。俺は昇進はしなかったが、上層部に知人はいる。犯罪の片棒を担がされた少女を無実にするぐらいの口利きはできる」

「アーノルドさん……」

「おっさん……いや、アーノルドさん。ありがとう。」

「いや、おっさん呼ばわりでいい……むず痒い。それより、すぐに行動するぞ。こんな物を取り扱う連中、どう考えても普通じゃない。そもそも存在を消された花がこの王都に持ち込まれているなんて異常だ」

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