第12話

 翌朝、アーノルドとイラーリは街を出て、草原に来ていた。

 「それにしてもおっさんレベルでクビになるとかマジか?酔いが覚めて冷静になったら、とんでもなく軍のレベルが怖えんだが……」

 イラーリは木剣を構える。

「クビではない。早期退職だ。王国軍に俺の居場所はもうない。俺は教えるのも下手だし、今は争いも少なくなった。衰えた俺はもう長く戦えない。現に今、昨日の半分くらいの動きしかできない」

「ぎゃははっ!おっさん!まじでおっさんだな!。筋肉痛か?」

「ああ……だから今日はこの練習が終わったら帰る」

「そうか、残念だぜ!」

 イラーリは剣を踏み込み、アーノルドに向かって右から振るう。

 その剣捌きをアーノルドは剣を弾き、イラーリは手から木剣を離してしまう。

「あっ!」

「わかったか?自身の力の波が」

「ああ、毎回、怖いぐらい同じタイミングで剣を弾かれて手から離れちまう。今までこんな経験ねえわ」

「生き物は永遠に同じ力を維持することは出来ない。力には強弱の波が出る。無意識なうちでな。そうでないと一気に疲労して長時間の戦いは出来ない。だが意識して若干でもいい。弱くなる所を意識してみろ」

「おう!」

イラーリは再び剣を持ち!右から振るう。

 剣は再び弾かれるが手から離れる事はなかった。

「!?」

「飲み込みいい。力加減を合わせてはいるが、無意識化では絶対に弾ける程度に力は入れた。この感覚を物にできれば一気に生存率は上がる。致命的な弱点がなくなるわねだからな」

「おおー!凄いわかるぜ!体感でわかる!すげーわかりやすいぜ!」

「だが、弱点もある。今まで休んでいた部分を無くしているからな。その分、疲労が早い。これが物にできたら、次は力の抜き方だ。そのコントロールができるようになれば次は力の込め方。最終的には一撃を打つ際、より力を込めることができる。普段戦っていた中の無駄なエネルギーを攻撃に転じることができるようになるからな。そして素人相手に見極められるようになったら俺と同じことができる」

「おおー、中々繊細で難しそうだが、さっきの体験があれば出来そうな気がするぜ

俺はてっきりめちゃくちゃ力の強えヤツの戦い方って思っていたが、女のオレでもできそうだ!」

「ああ、あの剣を弾いた一撃はイラーリの一番力を入れた時よりも力は入れていない。難易度は高いが出来ない事はない」

「まじか!?」

 イラーリはその言葉に目を丸くして叫ぶ。


「よかったぜ〜まるで『剛剣の鬼神』みたいな戦い方を教わっていて、めちゃくちゃ力が強くなければ意味ないじゃん!って思いかけてたが、十分に出来そうだ。ってか知っているか?『剛剣の鬼神』!軍にいるんだろ?」

「知っている」


「マジか!?ちょっと休みにして、話を聞かせてくれよ!圧倒的な力で幾多の戦争で生き残り、あらゆる敵を倒し、仲間を助け、下民ながら貴族にも一目置かれる英雄となった人!昔の人らしいが伝説は今でも衰えちゃいねえぜ!一度でいいから、その人から戦い方を教わりてえって剣を扱うやつなら思っているもんさ!少しでもいいから、どんな人だったか教えてくれよ!」

「まず、そいつは独身だ。若いときから戦いの事しか頭になくて、言い寄って来た女を全て断っていた。そして、いい年になった時、なぜ手を出さなかったのかと後悔している」

「ぎゃはは!マジかよ~ウケる!英雄と言えば女に金!みたいなもんだろ!」

(女の子が何を言っているんだ……)

とアーノルドは思うも言葉を続けた。

「笑い話はこれぐらいにして、その人はその称号を嫌っている。殺さなくても良かった敵を殺し続けて英雄になり、1人の仲間を助けるために100を犠牲にし、晩年はその強さ故に貴族の要望で本当に戦うべき場所でない所で戦ったりな。組織のしがらみの中、多くの犠牲者の上にその称号がある。だからその人はその呼び名を嫌っていた……。そんな話、聞きたくなかったか?」

「いいや、むしろ嬉しいよ。冒険者もだが強えやつは、その力に溺れる。その力に最後まで溺れず、ただ国の為に戦っていたんだろ。オレはやっぱり英雄だと思うよ。今、この国で平和があるのは彼のおかげ……って母ちゃんが言ってた。まあ、その母ちゃんから嫌気が指して飛び出して、冒険者やってるがな」

 と笑いながらイラーリは再び剣を握り直した。

 アーノルドも再び、「じゃあ、練習を再開するか」と微笑み返した。


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