第11話

○○○

暁のまかない亭

 そこにはワイワイと人々の楽しげな笑い声と香辛料や焼いた肉の香りが店を包んでいた。

 そして、一人の少女が「ぷはぁ~うめえ!」と酒を飲んでいた。

 「なあ、アーノルドさん!本当に何者だよって、あの時はおもったけど、まさか国の元兵士とか!マジで王国軍の兵士って強えんだな!」

「おっさんでいい。先輩にさん付けされるのは何だかむず痒い」

 並べられた豪華な食事。

 その食事は一般市民が口にするには少し贅沢な中身だった。

 鶏肉のむね肉に白パン。ソーセージと骨から出汁をとった野菜の入ったスープ。

 そして、魔法で冷やされたエールが並んでいる。

 ゴブリンチャンピオンを倒した後、アーノルドは自身の経歴を謙虚に答え、囚われていた少女を村に返すと多少なりの謝礼が支払われた。

 それでイラーリとアーノルドの懐具合は温かな物となっていた。

「じゃあ、おっさんで……でも、どうして冒険者なんかに?オレ、始めはおっさんが金に困って無理して来たヤツかと思って心配していたんだぞ……ってか年金も出るだろう?まさか変な女に貢いでいるのか?」

「何をいうのか……若い女が……単に暇なだけだ。金があっても飯代と服代が有ればいい。嫁と子もいない、いい年した男はやることがないんだよ。軍に老いた俺の居場所はなくなったが、冒険者が不足していると聞いてな。それで少しでも役立てればと思って始めてみた」

「ふーん。くそいいなぁ。オレみたいなEランク冒険者は明日の飯に苦労している時もあるというのに……俺も強くなってランク上げて、稼いで旨い肉食って、旨い酒を飲みたいっていうのに……」

「俺も若い時は同じことを言っていた。だが……」

「?」

「年を取ると脂っこい食事が受け付けなくなる。このソーセージはもういらない。全部食べていい」

「ギャハハハ!マジでおっさんはおっさんなんだな!マジでいいのか?」

「ああ、もう野菜スープと酒だけでいい。気持ち悪いんだ……だから無理に大金を稼がなくても困りはしない」

「おっさん……仙人みたいだな……ってかじゃあ女はどうなんだよ。おっさんみたいな金持ちでイケてたら、よってくる若いやつも多いだろう?そっちも枯れてしまったか?」

とイラーリは笑いながら尋ねる。

「若い女の子が変なことを言うのは止めるんだ。金持ちとかイケてるかどうかはわからないが、俺は年を取りすぎた。もう恋愛を考える年ではない。というより、金と外見で恋愛関係に発展するものなのか?俺はそっちの方がよくわからん」

 アーノルドはエールを煽り、飲み干して、従業員におかわりを頼んだ。

「まあ、俺にも其の辺はわからん、ギャハハ!」

 男勝りなイラーリの笑いにアーノルドもフフッと笑った。

 そのあと、イラーリは真剣な表情をしてエールを飲み干す。

「でよ……この後の事なんだが……おっさん……オレに戦い方を教えてくれねえか?謝礼はたくさんは無理だがよ。おっさんの戦いを見て、すげえって思ったんだ。無理か?」

「いや、むしろ俺の方も教えて欲しい。冒険者の基本は何もわからん。ゴブリンの習性を知らなければ、どこかで助けられた命を落とすことになっていたと思う。気軽に始めた冒険者家業だが、手を抜くつもりはない。ここはお互い先生という事で教え合わないか?それで謝礼はチャラだ。どうだ?」

「おっさん……ありがとう!愛してるぜぇ!!!」

そういうとイラーリは立ち上がってアーノルドに抱きついた。

 そして、アーノルドはその行為を落ち着いて受け止める。

(この娘……酒癖が悪いな……)

 見知らぬ人が見れば父と娘か

 金銭を介した関係かと思われるだろう光景。しかし、誰も気にしない。この酒場はみな酒に酔っている。

 だがただ一人、その光景にドギマギしている人物がいた。

 階級が下の方の新人兵士。

 下っ端中の下っ端でアーノルドも知らない人物であったが彼はアーノルドの事を知っていた。

(あばばばはっ!なんでこんな場末の酒場に引退したアーノルドさんが!しかもあんなに若くて可愛い娘とお酒を!しかも抱きついている!サーシャさんに知られたらどうなるか!どうしたらいいんだぁ!)

 そうして、アーノルドの初仕事後の夜は更けていった

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