第10話
ゴブリンチャンピオンはすぐに距離を詰め、バトルアックスをアーノルドに振り下ろす。
ブンっ!という空気を切る音がアーノルドの鼻を掠めるも、彼は目を見開いて何時でも剣を振るえる様に構えていた。
一撃、二撃、三撃と踏み込みながらゴブリンチャンピオンは立て続けに斧を振るうが、ことごとくギリギリのラインで空を切る。
その間、アーノルドは目を見開いて一瞬の好きも見せていなかった。
そしてイラーリもその光景に目を見開いている。
(ギリギリ躱した!?いや、あのおっさん、正確に相手との距離を把握している!!あの連撃を距離を取らずに当たらねえなんておかしい!)
アーノルドは斧のリーチとショートソードリーチを正確に把握し、数センチの間合いで距離を維持する。
それこそ、ゴブリンチャンピオンが当たると思えるほどの繊細な距離。
そして、アーノルドは対称的にそのリーチの差で劣るショートソードでゴブリンチャンピオンに一撃を決めるために隙を覗っていた。
(この、ゴブリンチャンピオンとやら、中々の筋力。一般兵士でもこの大きさの斧を数度と連続で振るえば隙が産まれるのに、一切その様な素振りはない。これが魔物との戦いか……いや!こいつ速くなってやがる!!)
何度と繰り返される空振り、それに苛立ちを覚えたゴブリンチャンピオンは心臓の音を早め、筋肉を膨張させる。
血の巡りを速くすることで、全身の筋肉運動を加速させ、より強靭、より素早く斧を振るい始めた。
「おっさん!やべえ!あいつスキルを使いやがった!おそらく『鬼神化』だ!ああなったら、しばらく止まらねえぞ!」
「わかった!」
アーノルドがそう言った瞬間、
「うがぁぁぁぁ!!!!!」
とゴブリンチャンピオンが叫び、一気に距離を詰め、斧を縦に振りかぶる。
その距離は確実に当たる距離。
(やばい!あの距離は絶対に当たる!)
その距離の詰め方にイラーリは目を見開いて驚愕した。
(いや!ちげぇ!チャンピオンが距離を詰めると同時におっさんも距離を詰めた!)
アーノルドは分かっていた。
自身より巨大な体格のゴブリンチャンピオン。
腕の長さも斧というリーチもすべてが相手の方が勝っている。
そのリーチ差を補う跳躍は隙が大きい。
ただ単に大きいだけの相手であれば跳躍したであろうが、彼は魔物との戦闘経験は多いとは言えなかった。
魔物は人間ではない。
人ではない生き物と対峙したとき、もっとも、恐るべき事は想定できない攻撃。
火を吹く魔物や触手を持つ魔物。その特性は様々ある。
そのため、アーノルドは自身が躱せる範囲で攻撃を誘い。相手の手の内を引き出す焦りを誘っていた。
戦いは相手の想定した先を行けば勝つ。
剣を振るう時、どの様な剣術であれ、先に剣を相手に当たれば勝つ。
アーノルドはゴブリンチャンピオンの振りかぶりという一瞬の隙を見逃さなかった。
振りかぶった瞬間、ゴブリンチャンピオンは自身でも気づかぬうちに斧の重さに重心を持っていかれていた。
何度も斧を振るった事による疲弊。
それにより、ほんの一瞬であるがゴブリンチャンピオン自身が気づかぬレベルで隙を見せた事でアーノルドはゴブリンチャンピオンの強さのレベルを見抜き、攻撃に転じる事を判断した。
彼は足に力を込め、バネの様に飛ぶ。
その刹那、アーノルドはショートソードの先をゴブリンチャンピオンの首に向け、背骨へと突き立て引き抜く。
「ぐぎゃ!」
ゴブリンチャンピオンは短く、音を鳴らし、ガランと音を立てて斧を落とした。
そして、「どさり」と音をたて、ゴブリンチャンピオンは絶命した。
その光景にイラーリは震える。
「なあ……おっさん……お前何者だ?」
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