第5話
「で、おっさん、その武器と防具じゃ死にに行くようなもんだぜ。そんなに……いや何でもない」
イラーリはアーノルドの服装を上から下まで見てそう言った。
その後にそんなに金がないのか?とイラーリは訪ねそうになったが、冒険者になると決める時は大抵金に困っている事が大半、まして40代であろう男が冒険者を始めるのはワケありが多数なので言葉を飲み込んだ。
「防具はないが剣ならある。今から取りに帰るから教会の鐘が3回目の時に門の所で集合でいいか?」
「おっさん……いや、何でもない。この仕事が終わったら皮の防具でいいから、買っておけ。命が大事だったらな」
そうして、アーノルドとイラーリは別れ、3回目の鐘がなる時に二人は門の前で集合した。
「じゃあ、行くか!おっさん!依頼のあった巣穴はカボチ村の外れだ。オレも何回かいった事があるから案内できるぜ」
イラーリは笑って門を出て、街道を歩く。アーノルドも彼女について行った
街の外は畑が拡がっており、人の行き来で地面は固まり、道になっていた。
「で、おっさんが持ってきた武器はショートソードか……いいね、洞窟内だとあんまり長すぎるのは良くないんだ。壁にぶつけたりして折れる事がある。まあ、新人にロングソードは買えねえし、護身用として持ってる事も少ないしな。それも護身用か?」
「ああ……俺がまだ若かった頃に使っていたやつだ。たまに手入れをしていたから錆びてはいない」
「へえ……オレもショートソードだ」
イラーリは武器を抜き、アーノルドに見せる。
その武器はしっかりと手入れされており、アーノルドの持ってきた武器と比較しても遜色はなかった。
アーノルドの持ってきた武器は軍に入隊した時に支給されたショートソード。
当時はそこらの街で買えるような質の代物ではなく、できの良い武器は国に徴収されていたが、時代が進み平和になったことで質良い武器が市場に流れた事で比較的手に入りやすい品質の物になっていた。
(時代は進んだ。当時はこれぐらいの物は兵士でもなければ手に入れられなかったはずだが……いや、今を生きる若者たちが品質の良い武器を使えている。良い武器があれば生き残る確率が上がる。いい時代になった)
アーノルドは少し思いをはせているとイラーリが「道中行くがてら、ランクについて教えてやるよ」と言った。
「ありがとう。ぜひ教えてくれ」
「まずはランクだな、一番上がSでそこからAからFって感じに下がっていく。だが普通のクエストはCまでだ。B以上は中々ないし、Sなんかきたら街崩壊の危機レベル。国も動くような話だ。だから話半分で覚えておいたらいい」
「ふむ……」
「Cクラスとなるとサイクロプスみたいな巨人と戦うんだ。単純にクエスト難易度イコールそのクラスのモンスターと戦う事になると思っておけ。ここまでになると2年も働けば家が立つ。たがここまでになるのは一握り、凡人はせいぜいDだ。それもソロでなんて出来ない難易度だから、金も折半、それでも10年やれば家がたつ」
「ほう、中々に夢がある」
「ああ、だけどEとFは安い。月に10回はこなさないと生活は出来ねえ。特にFのみならもっとかかる」
「そんなにDランクとEランクに差があるのか?」
「ああ……だいたいEランクのモンスターを倒す難易度が……大人の人間を殺すレベルだって言われている」
アーノルドは少し下を向いて聞いていた。
「毎日人間と殺し合いするようなもんだ。集団でやるとなると簡単だがソロだとキツイ。だが、集団だと金がたまらない。しかし、Dに上がってこなせれば人生勝ち組よ!」
(生きていればの話だろうがな……)
アーノルドはそう心の中で思う。
大人の人間が死にものぐるいで戦うレベル、一般人であれば生きるか死ぬか五分五分の賭けだ。
しかし、一般人でも経験を積めばそれは0に近づいていく。それでも完全に0にはならない。
アーノルドは強かった兵士が隙を見せてしまって新兵に殺される。そういう光景は幾度と見てきている。
それを0にできるのは恵まれた才能と知識と経験を積むことができた一握りだと言う事を彼の記憶は知っていた。
「あと……冒険者のランクが上がらねえと同ランクのクエストは受けれないから注意だぜ!」
「なんだかんだ冒険者もコツコツやらないといけないんだな」
「ああ、でも夢のある仕事だ。田舎で燻っていた三男坊が数年後には英雄になってるかもしれねえ。オレのような女だって高ランクになれば男に負けねえほど稼ぐ事ができる。血筋も年齢も関係なく強いやつが偉い!儲かる!そんな仕事はコレしかねえんだ!」
「俺みたいなジジイに片足突っ込んだおっさんでもできるか?」
「ああ!強かったら人生大逆転だぜ!儲けまくって10代の美人の嫁を何人も娶る事だって出来ちまうかもな」
イラーリは笑って、アーノルドの背中を
叩いた。
(15かそこらの小娘が何を言っているんだ……)と言いたくなったが彼女の夢を壊すような気がして彼は口を閉ざした。
「そうだ……たまにランク不指定の高難易度が出るがよ……飛びつくんじゃねえぞ……おっさん」
イラーリは少し暗い顔で言った。
「そういうクエストはランク関係なしにクリアできたらいい、もしくは何人死人が出てもクリアしてもらわないと困るみたいなクエストだ……大抵のクエストはブッキングのトラブル回避のため、複数のチームがクエストを被らないようにされているが、こういうのは早い者勝ち、時には闇討ちして成果を横取りするやつもいる……命よりも金が欲しいようなやつしか受けちゃならねえ仕事だ。覚えておいてくれ……」
「わかった……」
「おっ、あそこだぜ。今回の仕事場は……」
イラーリは街道から少し離れた場所を指差し、少し歩いていていくと洞窟があった。
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