第4話

 冒険者ギルドの扉を開けると大勢の人間がひしめき合っていた。

 アーノルドは周囲を見渡す。

 依頼を受けている者や依頼を終えたあとであろう者が大きな袋を携えて受付を並んでいた。

 そして、受付の看板を出していた場所に並ぶ。そして順番がやってきた。

「あー、何かよう?」

(なかなかぶっきらぼうだな……)

「冒険者なりたいのだが……」

「じゃ、これ書いて、書けなかったら代筆依頼を向こうで……」

「いや、問題ない。これでいいか?」

アーノルドは渡された紙に必要事項を書き、受付嬢に渡した。

「じゃあ、はい。ギルドカードに最底ランクのFランクを表す銅のプレート、じゃ、ご文運を……」

 呆気ない終わりにアーノルドは虚を突かれる。

「これで終わりか?犯罪歴とか調べないのか?」

「あんた元犯罪者なの?」

「いや、違うが……」

「なら大丈夫よ、冒険者は依頼が出ているクエストを受けて成功してくれれば問題ないの、死んだらそれではい終わり。じゃあ早くどいてくれる?次の人が待っているんだけど」

 アーノルドは後ろに立っていた男に

「すまない」と告げ、少し離れて受付嬢に「ありがとう」と告げた。

(なんというか呆気ないな……)

 周囲を見渡すとクエストが載せられた掲示板に人がちらほら眺めているのが目に入る。

 そばに寄ってみると、まだ10代ほどであろう少年が掲示板に貼られた紙を取り、受付へと渡していた。

 なるほど、ここに書かれた紙を持っていけばいいのかと理解する。

 紙には大きくイラストと数が書かれており、文字が読めなくてもある程度わかるようになっていた。

「おい、そこのおっさん、新人だろ!」

 アーノルドは後ろから声をかけられ、

「ああ、そうだが……」と言いながら振り返る。

 そこには30代前半ぐらいの恰幅の良い男がたっていた。

 彼は腰には剣、皮の鎧と汚れたシャツ、多少なりの経験を積んだように見える格好をしてた。

「キョロキョロしているのを見ればわかるぜ、その年で新人冒険者……でだ、入り用ってなら、俺達のメンバーに入らないか?」

「入り用って……」わけではない

そうアーノルドは言おうとしたが、眼の前の男が気にせず「ちょうど荷物持ちを探していてな、Eランククエストなんだが……取り分は1と9でどうだ?メンバーは他に2人いる。ついでに色々と教えてやるぜ」

 アーノルドはその言葉に少し嬉しくなる。

(ギルドから何も説明がなかったし、仕事としての研修もない、中々に不安だったがいい人に会えたようだ……だが……)

 いい人過ぎる……

 そう考えた瞬間、

「おっぎょおぉぉぉ!!!!」

 と眼の前の男は発狂したように股間を抑え倒れ込んだ。

 「そこのおっさん、あんた騙されているぜ」

 眼の前には男勝りな少女が一人

髪は後ろで束ねており、軽装な牛革の鎧に下半身は動きやすいホットパンツ、手首を守るためのサポーターを付けた15ぐらいの女の子がいた。

 その若い足は軽やかに男の大事な者を見事に蹴り上げていたのをアーノルドは見ていた。

「オレの名前はイラーリ、Eランク冒険者だぜ。そこで伸びてるのはダマシ、冒険者のクズだぜ。おっさん、冒険者の基本は自己責任だが……クエストに対しての報酬は基本的に全部ワリカンだぜ……」

「こいつは俺をぼったくろうとしたのか?」

「ああ、どんなランクの依頼だって命をかけてる。死ぬかもしれないのに1対9はやり過ぎ……。それに荷物持ちが必要なら荷物持ちの依頼としてクエストが出る。それには危険時には荷物を捨てていいだとか、戦闘時は逃げていいとかの規約がある。こいつの言った条件でクエストを受けると、重い荷物を持たされているのに、戦闘もやれ、みたいな言いがかりを付けられても文句は言えねえんだ。こいつはそうやって新人から金と労力を毟り取ってくるクズだから気をつけるんだぜ!」

 イラーリは気の良さそうな笑顔で語った。

「ちくしょう!お前何しやがるんだ!」

 ダマシは股間を抑えながら叫ぶ。

「昔、オレも騙しやがったよな!これは、そのお返しだ!オレももうお前と同じEランク、偉さで言ったらオレとお前は同じだ!」

そういってイラーリは健康的な生足でダマシを蹴りつけた。

(ランクが高いと偉いのか……)

アーノルドはそう思いながら「ありがとう、危うく騙される所だった」とイラーリに感謝した。

 そして、再びクエストを眺め、Fランクの依頼の紙を取る。

「おせっかいかもしれないが新人は薬草採集とかで……ってオイオイ、おっさん、まったまった。」

「ん、なんだ?」

「早く金を稼ぎたい気持ちはわかるが、そいつは止めておけ、慣れないうちは薬草採集とか正規に出ている荷物持ちとかにしておけ。それは新人には危険だ」

「そうなのか、だが、これはFランクではないのか?」

「Fランクだが、この依頼を普通にこなせたらEランクになる。そういう立ち位置のクエストだ。だから……」

 イラーリはクエストを眺めるも話しているうちにFランクの依頼は他の冒険者たちに取られて行き、残っているのはアーノルドの持った依頼書だけになっていた。

「おっさん、オレも一緒にそのクエスト受けてやろうか?色々と教えてやるぜ」

「いいのか?こんな新人に時間を使って」

「いいって、オレも昔、いい人から冒険者のイロハを教わってな!オレもEランクになったら新人に教えてやろうって思っていたんだ。報酬は6対4でいいぜ。6がオレだ、いいか?」

イラーリは笑って尋ねた。

「ああ、よろしくお願いします。イラーリ先輩……」

「おう!オレに任せておけ!だけど先輩呼びは少し恥ずかしいから、イラーリでいいよ」

 少女は少し、顔を赤らめてモジモジしていた。

「わかった。よろしく頼む。イラーリ」

 そしてアーノルドは依頼書を受け付けに持っていく。

「こちら、Fランククエストですが……」

受付嬢が言おうとした瞬間、イラーリが割って入って「オレも一緒に受けるから大丈夫だぜ」と笑顔で行った。

「わかりました。それでは『ゴブリンの巣穴討伐依頼』をアーノルドとイラーリ、2名で受理します」

そして、依頼書にハンコが押された。

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