第3話 秘密のやり取り

 授業の合間の中休み――特にこれといってすることがない俺は、ぼーっと外の景色を眺めていた。

 俺の座席は一番左の後ろに位置しているので、最高の環境で授業に臨める。


「よぉ! ゆーま! 今日も辛気臭い顔してんなぁ」


 教室の扉が勢いよく開かれたかと思うと、満面の笑みを浮かべながらとある男が入ってきた。


「うっせぇ、お前こそ昼から出席とは良いご身分だな」


 その男は、俺の隣の席に座る。

 この隣に座っている鬱陶しい奴は、羽賀連之助はがれんのすけ。中学生からの同級生でむかつくことに彼女持ち。短髪のスポーツ刈りなため、見た目は陽キャに近いが、

 遅刻の常習犯なので度々担任に怒られているのを目にするが、まったく反省の色を見せない。

 ただこいつはゲーム仲間でもあるので、唯一この学園の中では腹を割って話せる人物である。


「いやぁ、千夏がさぁ一緒にいたいって言うから、つい遅刻しちまってよぉ! いやぁ、困っちゃうよね~」

「さいですか……」


 こいつの話すことは大体惚気話かしょうもないことばっかりなので、八割以上流している。そうしないとこいつとはやっていけないのだ。

 ちなみに千夏というのは、南沢千夏みなみさわ ちなつといって羽賀の彼女である。

 明るくて容姿端麗で友達も多い。霧切さんと一緒で学内の人気者だ。噂で聞いた程度だが、この学校の男子たちは霧切派閥と南沢派閥と別れているらしく、常に争っているとか……。


「そんなことよりお前、制服伸びてね? しかもボタン外れてるし…・・」


 俺の胸元を見て羽賀がそう呟いた。


「あぁ、これか……」


 ヤンキーに絡まれた時にできたやつだ。

 本当はクリーニングに出して直してもらおうかと思ったんだが、新作のゲームがしたかったのと週末はずっと雨だったので外に出るのが億劫でクリーニングは出さなかった。

 一応羽賀には霧切さんとの出来事は黙っておくことにしよう。


「もしかして、ヤンキーにでも絡まれた?」


 こういうとき、こいつの感は無駄に鋭い。


「いや、洗った時に別の衣服と絡まっただけ……」


正直ヤンキーに絡まれた事実は話してもいいんだが、情けなくて笑われそうなのでやめることにした。


「ほーう」


 無理やり作った嘘ではあるが、なんとか納得してくれたようで安心した。

 こいつは面白い話題があるととことん追求してくるタイプなのでめんどくさいのだ。

 ふと、右端の一番前に座っている霧切さんに視線をやる。そこにはギャル三人組が霧切さんの席を囲み、女子トークに華を咲かせていた。


「美鈴、ネイル変えた?」

「そうそう、めっちゃいいしょ!」

「チョーいい感じじゃーん! ウチも夏用にそろそろ変えよっかなー」


 その中心人物にいるのがもちろん霧切さんだ。

 女性と話すときは常に笑顔でいるため、男子といるときとのギャップが激しく映ってしまう。


「あぁ、霧切さんか。さっき男子四、五人に告白されてるの見たぞ」


 俺の視線の先を辿った羽賀が呟いた。


「大変だな。あいつも」

「それな。まぁ超美人でスタイルもいいし当然だろ」

「お前もそう思うか?」

「おう、彼女がいなかったらアプローチしてるぐらいだ」


 まぁ、そりゃそうだろうな。

 学内の男子で告白していないのは俺と羽賀ぐらいなもんだ。


「ゆーま、もしかして、ああいうクール系の女子がタイプなん?」

「いや、特に……」


 好きなタイプとか考えたことがなかったので、何とも言えない反応になってしまった。

 もちろん俺から見ても霧切さんは可愛いと思うし、もし彼女だったら嬉しいとも思ったりする。

 ただ――。


「俺は彼女は作らん。平穏な学園生活が送れないからな」

「そういうもんかね。彼女がいたほうが百倍楽しいけどな」


 そう言いながら、羽賀はコンビニで買ってきた焼きそばパンを口に運んだ。

 たしかに高校に入ってから彼女を作り出したこいつは毎日が幸せで溜まらない様子。

 それを見て羨ましいとも思うが、やっぱり俺は何者にも縛れず自由に好きなことをして生きていたいと思ってしまうのだ。

 それに、彼女が出来れば必然と休日はデートに時間を割くことになるだろう。それも幸せなことなんだろうとは思う。でも、今は平穏な学園生活を送るとともに趣味の時間を大切にしたいという気持ちが強い。

 趣味が合う彼女がいれば嬉しい限りだが、そんな女の子と出会える確率はほとんどないだろう。まして俺はインドアで、ゲーマーな為、話が合う女性は希少種に等しい。


「ほら、彼女ができるとこんな感じに」


 羽賀がスマホの待ち受けを見せつけてくる。

 そこには羽賀と千夏が笑顔で写っているプリクラだった。幸せそうにピースをしている。


「あー! やっぱり千夏、可愛いなぁ~!」

「さいですか」


 話が脱線してきたので、気の抜けた返事をする。


「おい、ちゃんと聞けよ」


 無理やり見せつけてくるので、鬱陶しくなった俺は、自分のスマホに目を向ける。

 すると、とある人物からメッセージが来ていた。


「(霧切さん)何じろじろ見てんの?」


 どうやら先ほどの視線に気づいていたようだ。

 後で返そうと思ったが、無視をしているとバレれば後から鋭い視線が飛んできそうなので、秒で返信内容を考える。


「(悠馬)いや、見てないぞ」

「(霧切さん)嘘つき。さっき見てた」


 どうやら見抜かれているようだ。

 これ以上嘘を吐いても仕方がないので素直に謝ることにしよう。


「(悠馬)すまん。霧切さんのことが話題に上がったから見てた。でもいやらしい意味じゃないから」

「(霧切さん)あっそ。まぁ別にいいよ。気にしてないから」

「(霧切さん)っていうか今日暇?」

「(悠馬)暇じゃない」


 今日はフィニッシュファンタジーの続きをやらなければならない。

 物語の終盤にさしかかり、残り二時間ぐらいでクリアできる。今日はエンディングを見て、余韻に浸ろうと思っていたんだ。

 こればっかりは誰にも邪魔されたくない。


「嘘つき、どうせ帰ってあーるぴーじーするんでしょ?」


 RPGを平仮名で使っている人を初めて見てクスリと笑ってしまう。まぁ、ゲームとは縁がない人にとってはそんなものなのだろう。

 しかし、霧切さんの予想は当たっている。


「(悠馬)傘か?」

「(霧切さん)まぁそんなとこ」


 傘を返しにいくだけならそんなに時間は取られないと思った俺は、特に予定がないことを伝える。

 でも、よく考えたら傘を返すためだけに俺の家によるのは不自然な気もするが、まぁいいか。

 クッキーの件もあるので、霧切さんは律儀な性格だと、勝手に思い込むことにした。


「おい、何ニヤニヤしてんだよ。気持ち悪いな」


 羽賀が俺のクスリと笑った表情を見て、怪訝な顔を浮かべていた。

 まずい顔に出てしまっていたようだ。


「あーえっと……SNSで面白いつぶやきがあったから」 

「ふ~ん」


 霧切さんと連絡を取り合っているとバレたらどんな噂を流されるか分からないので、ここは平穏な学園生活を維持するため、ここは黙っていることにした。

 スマホを机の上に置いて、ふと、教室の隅にいる霧切さんへ視線を向ける。

 ちょうど、霧切さんと目が合い、俺に向かってクスリと笑みを向けたあと、ギャル仲間との会話に戻っていった。


(なんだあいつ……?)


 何故だろう。霧切美鈴と関わり合うことによってその平穏な学園生活から遠のいていくようなそんな不思議な感覚があるのは気のせいだろうか――。

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