空のテクスチャ
「ゲームのテクスチャみたいだな……」
人生で初めての飛行機に乗るために、時間をつぶしながら待っている空港の搭乗口付近の待合席。目の前の窓から見える青空に浮かぶ二重雲を見て、ふとそう思った。 雲が二層に分かれ、低く薄い雲が風に流されるのに対し、高く分厚い雲は重く大きいせいか、流されることなく止まって見えた。その動きの差と空色の下地が、球形の空に蓋をしているゲームのテクスチャのように見えた。
「飛行機で空に行ったらアレにぶつかったりするかな」
思ったことを小さく呟く。 初めて飛行機に乗るということは、空に行くことも初めてだということ。テレビで成層圏や宇宙の映像を見ても、空へのイメージが無くイマイチ現実味が無かったせいでそれらのことを信じられなかった俺にとっては、これから見るものがこれからのイメージの元になる。
飛行機はきっと低く、薄い雲なら突き破っていく。だけど高い雲は? 空色と分厚い雲のテクスチャに阻まれて、ぶつかって落ちてしまうのではないだろうか。それとも、ゲームみたいなテクスチャなんてものは本当は存在しなくて、あの高く分厚い雲でさえ突き抜けて空を飛んで行くのだろうか。
まだ見た事がない空への憧れは空想になって募っていく。 だが、そこで冷静になる。
(現実なのにテクスチャも高度限界もあるはずないか。何考えてるんだか……)
自分自身に呆れた。絶対ゲームのやりすぎだ。現実とゲームの境すら分からなくなるなんて。こんな調子だと飛行機に乗る前に、俺は飛べるから飛行機なんて乗らなくてもいい、と言ってしまいそうだ。
そんなくだらないことで自省していると、搭乗手続きのアナウンスが流れてきた。チケットと荷物を持って搭乗口を通る。タラップを歩いて飛行機に向かう。 指定された席に座って外を見ていると、一機の飛行機が離陸して行くところだった。目で追っていたが、飛行機は視界から外れて最後まで見ることは出来なかった。少し残念だったが、どうせこれからこの飛行機も同じ航路を辿るのだ。最後まで見る必要はなかったと諦め、離陸に備える。
空に厚い雲のテクスチャなんて無くて、飛行機は当たり前に雲を突き破って空を飛んで行く。ちょっとした空へのあこがれを、現実はそんなものだと証明して、また明日に飛んでいくために。
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