隕石 桃

 20XX年宇宙に桃、いや、桃の形をした隕石が突如として出現した。月の大きさの半分ほどのそれは、ゆっくりと着実に地球に向かっていた。どんぶらこ、などと穏やかな擬音は使っていられない。このままでは地球の滅亡は確定である。そこで、各国の学者・政府関係者が一丸となり、この突如現れた隕石をどうするか話し合いを始めた。


「あれが、地球に到着するまでの時間はわかったか!?」

 ある政治家が議場で半分怒鳴りながら質問する。

「あと一週間ほどです!」

 それに対し、若い博士が現在の距離とスピードから計算したタイムリミットを宣言する。議場は一気に騒がしくなった。

「その計算に間違いはないんだろうな!?」

「イレギュラーなことが無ければ、です。どこから来たかもわからない。なぜ桃の形をしているのかも分からない。そもそもなぜあんなにスピードが遅いのかも分からない。分からないことだらけで、正直何が正しいのか判断がつきません」

「確かに……あれが観測されたのは2,3日前だ。普通ならとっくのとうに地球にぶつかっていてもおかしくはない」

「そうなんです。我々学者サイドとしては、桃型という特殊な形状があの速度を出しているのではないかと考えているのですが……」

「桃、か……我々も画像を確認したが、あそこまではっきりと何かの形を模すことはあるのかね?」

 政府高官がそう訊ねる。

「まずあり得ないでしょう。他の隕石がぶつかって削れることはあっても、あそこまで表面が滑らかであったり、凹凸がしっかりあるのは考えられません」

 それに対して、中年の学者が応える。あの形状については学者間でも十分話し合ったと言うように。

「とにかくだ! ミサイルでもなんでもいい。早くあれを破壊しなければ我々どころか地球が破滅するのは確定しているのだろう? ならもうこの際ロシアでも北朝鮮でもどこでもいい! ありったけぶつければいいじゃないか!」

 過激なことで有名な政治家が怒鳴る。周囲にいる政治家たちがむっとしたように反論しようとしたが、

「無理です。そもそも届きません。もし大気圏外に出たとしてもそこからどう制御します? ロケットの制御だけでも大変なのに」

 という学者の言葉に否定され、発言した政治家もろとも口をつぐむしかなかった。

「ではどうする……? 実際、打つ手はあるのか?」

 手詰まりを感じ、静まり返った議場で先ほどの政治家が口を開く。

「正直、ありません……大気圏に入ってからミサイルなどをありったけ、とも考えましたがそれでは到底破壊できませんし、なにより破片の被害が大変なことになります」

 絶望的な状況に再び議場が静まり返る。そこに、あわただしく三人の足音が駆けこんできた。

「「「我々が隕石を破壊します!!!」」」

 息をそろえて叫ぶ三人に、その場にいる全員が振り返る。

「誰だね、君たちは。ここには、関係者しか立ち入れないはずだが」

 扉の一番近くにいた政治家が威圧しながら訪ねる。

「はい、我々三人組は来る日に向けて準備を進めておりました。いさき組と申します!」

 三人を代表するように真ん中の一番小さい男がそう答える。

「いさき組? なんだね、それは」

「はい! 犬、猿、雉の頭文字をとっていさき組です!」

 一瞬、その場にいる誰もがぽかんとする。

「なんだね、その……桃太郎みたいな組み合わせは。それに来る日というのは?」

「はい! 桃型の隕石が降ってくる日です! それになぞらえて我々も犬猿雉のコードネームを付けました」

「あぁ、わかった。警備員! 早くつまみ出してくれ!」

 これ以上、素人の与太話に付き合う時間は無いと入り口近くにいた政治家が警備員を呼ぶ。

「待ってください! 我々はただ許可をもらいに来ただけなのです!」

「許可ぁ?」

「はい、具体的には一機のロケットを飛ばす許可を。領空侵犯で取っ捕まるとか御免ですので」

「そんなものいくらでもくれてやる! 今は時間が無いんだ、早く出て行ってくれ!」

「分かりました。ありがとうございます! よし、二人とも行くぞ!」

「「了解!!」」

 そう言って奇妙な三人組は出ていった。

「何だったんだあれは……知ってるやつはいないか?」

 先ほどまで話していた政治家が聞くが誰もが首を横に振るばかりだった。

 そこに、外から爆音が鳴り響き、その場にいる全員が窓に駆けり、上空を見た。

「なんだあれは……?」

 ある学者が呆けたように呟く。そこには今まで見たこともないような大きさのロケットが遥か宇宙を目指して飛び出していく姿が見えた。誰もが先ほどの奇妙な三人組のことを思いだした。

「あんな大きなものがあの速度で飛ぶはずがない……それにさっきまでいた三人は? まさかここからあの距離までを移動したのか?」

 答えるものはだれもいない。ただ爆音だけが遠ざかり、あっという間に空へ見えなくなった。

 そして、しばらくして空に星が光った。

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