スーパーに咲く一輪の花

あの後、俺の管理するマンションに暮らすことになったマリーさんはというと.....


「いらっしゃいませ〜」


生活費を稼ぐために、近くのスーパーで働き始めていた。


「あ!!伊織さん!!」


俺の存在を確認した後、すぐさま近づくマリーさん。

......可愛い。


「マリーさん、今日も頑張っていますね」

「はい。周りの皆さんが優しいおかげで、何とか頑張っています」


ニコニコ笑いながら、そう言うマリーさん。

その笑顔がよほど尊いのか、周りのお客さんは、チラチラとマリーさんの方を見ていた。

うん、分かる。

分かるぞぉ!!


「それに.......私の立場上、こういう体験は出来なかったので、新鮮で楽しいんです」


.......新鮮、か。

時代に翻弄された悲劇の王妃が、日本のスーパーで働いているって知ったら、フランスの人達はビックリするんだろうなぁ。


「あと、職場の人が色んな料理のレシピを教えてくれるので、とても勉強になるんですよね」

「へぇ!!そうなんですか!!」


実のところ、俺のマンションで住み始めたマリーさんは、四苦八苦しながらも料理をするようになったのだ。

もちろん、味はめちゃくちゃ美味しい。

今のところの得意料理は、肉じゃがらしい。


「マリーさん!!こっちを手伝ってもらえませんか?」

「あ、はい!!」


そう言った後、パタパタとその場を去るマリーさん。

ちょうどその時、マリーさんと入れ替わりで現れたのは.......ここのスーパーでパートをしている、俺の母親だった。


「マリーちゃん、今日も頑張っているわね」

「あぁ、生活費を稼ぐのもあるんだろうけど、ちゃんと家賃を払いたいって言ってたから、それもあると思う」


俺がそう言うと、母さんは


「まぁ、あなたの管理するマンションの第一住人だものね」


と、ニヤニヤとした顔で言った。


「.....何だよ」

「いや〜、とうとう息子にも春が来たのかなって思っただけよ」

「なっ!?」


母さんの言葉に対し、そう言葉を漏らす俺。


「何でそういう話になるんだよ!!」

「息子が管理しているマンションに、マリーちゃんみたいな美人が暮らしているのなら、そういう話になるわよ〜」

「ならねぇよ!!」


何でこう.....マリーさん=俺の彼女って結びつけるんだ?

まぁ、たまに可愛いとか、ドキドキすることはあるけど....


「伊織さん?」

「ヒャイッ!?」


その場に現れたマリーさんの言葉に対し、思わず、変な声が出る俺。

び、ビックリした.....


「マリーちゃん、頼まれていた仕事は終わったの?」

「はい!!何とか終わりました!!」


満面の笑みでそう報告するマリーさん。

くっ.....可愛い。


「伊織.......今、マリーちゃんのことを可愛いって思ったでしょ?」

「.......エスパーかよ」


母さんだけは敵に回さないようにしよう。

そう覚悟した、今日この頃なのだった。

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