第15話 母から受け継いだ宝物

 それにしても立場こそ元主従とのことだが、こうして二人が並んでいると母と娘にしか見えない。

 何というか、お互いに信頼しているような雰囲気が感じ取れるのだ。


「まさかこんなことになるなんて夢にも思いませんでしたわ……」


 心底落ち込んだようにロゼミは肩を落とす。


「大丈夫だよ! アイがいるもん! アイがすぐに犯人を見つけてあげる!」

「うふふっ、ありがとうアイちゃん」


 アイの励ましを子供ながらの気遣いとして受け取ったのか、ロゼミは朗らかな笑みを浮かべた。


「しっかし、ディアナの奴遅いな」

「おそらく今頃現場をじっくり調べているのでしょう。彼女はベオウルフ様に毎回逃げられていますが、彼の手口は熟知しておりますもの。しっかり調べてベオウルフ様の犯行でないことを確信している頃ではなくて?」


 ロゼミははっきりとそう言い切った。

 憎まれ口を叩きつつも、何だかんだでディアナのことは信用しているようだ。


「ほう、今回の犯行はベオウルフのものじゃないと」

「ええ、彼ほどの大怪盗がこのような無粋な真似をするはずありませんもの」

「それには俺も同意見だ。だとすると一体誰が……」


 早いとここの茶番劇を終わらせて浮気調査の報告を済ませてしまいたい。

 インカさんとロゼミが会っている写真もさっきボールペン型の隠しカメラで撮影を終えている。


「ねぇねぇ、パパ。ちょっといい?」


 どうしたものかと考え込んでいると、アイが俺の服の裾を掴んできた。

 何かわかったのだろうか。


「インカさんを尾行しているとき、何か気になったこととかなかった?」

「気になったことか。食事をするときに持参した木製食器を使っていたこととか、ロゼミに会う前になってから辺りを警戒し出したことくらいだな」


 木製の食器を使っていたし、きっと奥さんの趣味なのだろう。


「お店に入ってからは?」

「ロゼミと仲良さげに店長のキルギヌさんから宝石を見せてもらっていたぞ。この店はロゼミが贔屓にしていた店らしいから、キルギヌさんの対応も丁寧だったぞ」

「そっか……」


 俺の話を聞いたアイは、いつもの天真爛漫な表情を引っ込めて真剣な表情で考え込んでいた。


「お前、まさかインカさんを疑っているのか」

「ううん、ちょっと気になっただけ」


 そう言って、曖昧に笑うとアイは今度はロゼミをこちらに呼び出した。


「ねぇねぇ、ロゼミさん。その髪と目の色すっごい綺麗ですね!」

「あら、ありがとうございます」


 ロゼミはアイの言葉に、まるで子供が親から褒められたときのような満面の笑みを浮かべた。


「この髪と瞳の色は母から受け継いだ宝物ですのよ。どんな宝石よりも大切な宝ものですわ……」


 そういえば、ロゼミの母親であるエメラルダ・クロサイトは彼女が物心つく前に事故で亡くなっていたんだったな。

 目立ちたがり屋の金持ち道楽娘だと思っていたが、少しだけロゼミの人間性がわかった気がする。

 そんなことをしている内に犯行現場を見てきてディアナが戻ってきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る