第14話 ベオウルフ信者
「だって彼、最高に格好いいではありませんか!」
その瞳には狂気の色が見え隠れしていた。
ロゼミは自分がどれだけ本気でベオウルフを狙っているかを語り続ける。
「彼の風貌、仕草、口調、全てがわたくしの理想の男性そのものですわ! 窃盗というケチな犯罪を大胆不敵な犯行によって最高のエンターテインメントに昇華させ、犯罪だらけのこの国に最高の娯楽を提供する。まさに、一昔前に実在した怪盗シャノワールの再来! そんな男性を自分のものにするなんてどんな財宝を手に入れるよりも贅沢なことだと思いませんこと!?」
「えっと……」
「それに、わたくしの財力やコネクションを総動員すれば彼の罪や存在そのものを揉み消すことも可能ですわ。だからこそ、わたくしのパートナーになってほしいのです!」
頬を紅潮させて興奮したように語るロゼミを見て俺は確信する。
こいつ、厄介なタイプのファンだわ。
「あんたならできそうなところが恐ろしいな」
正直、ドン引きした。
こんなやばい奴に人脈と財力と美貌と行動力与えたのは神様の痛恨のミスとしか言いようがない。
いや、むしろ人が望む物全てを持っていたからやばい奴になったのかもしれない。
少なくとも財力において彼女の右に出る者はいないかもしれない。
それにしても、怪盗シャノワールとはまた懐かしい名前だ。
彼もまた昨今問題となっている偽物問題の原因の一人である。
有名な怪盗が盗んだ品はそれだけで知名度が上がる。さらに盗品と知っていて購入するコレクターはそもそも後ろ暗いことをしているため、偽物を掴まされても被害を訴えづらい。
偽物が出回るのも道理というものだ。
「それじゃ、あの女性とはどんな関係なんだ?」
俺は本来の目的だった浮気調査の方に頭を切り替えることにした。
インカさんとロゼミの関係。
それさえ聞き出せれば、浮気調査は終わったも同然だ。
「ああ、インカのことですの? 彼女は昔わたくしの専属メイドでしたのよ。物心つく前に母を亡くしたわたくしにとっては母親同然の存在ですわ。インカちょっとこちらに」
「はい、お嬢様」
奥さんはロゼミの呼びかけですぐにこちらへと駆け寄ってきた。
「こちらわたくしがいつもお世話になっているディアナ・モンド警部の恋人のライアン・スローンさんですわ」
さっきまであんなにゴリラゴリラとバカにしていたのに、本人がいないところだと普通に紹介するのか。
警察がベオウルフを取り逃しても気にしていないようだったし、案外ディアナのことは気に入っているのかもしれない。
「はじめまして、ライアンです。このお店には彼女に送る婚約指輪の下見に来ていまして」
「まあ、そうだったのですか。はじめまして、インカ・ヴァールハイトと申します」
メイド時代の癖なのか、奥さんはスカートの裾を掴んで優雅に一礼した。
「お二人はどうしてこのお店に?」
自分の目的を先に明かしたことで、この質問をしても取り調べの間の世間話程度にしか思わない。不謹慎だが宝石盗難事件が起きて助かった。
「わたくしは以前からインカに相談されてプレゼントの宝石を見繕っていましたの」
「主人の誕生日がもうすぐでして。恥ずかしながら素人の私では宝石商の主人が気に入る宝石がわからず、お嬢様に教えていただいていたんです」
「このお店はわたくしが贔屓にしているお店ですし、ベオウルフ様用の宝石が届いたと聞いて来店しましたの」
どうやら宝石巡りは以前から行っていたようだが、ベオウルフを釣るための餌が届いたから購入ついでにこの店を選んだようだ。
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